これまでの成果により、induced pluripotent stem cells (iPS細胞)を0.5μMのRetinoic acid (RA)により刺激することで、シンシチオトロホブラスト様細胞に分化することが確認された。近年iPS細胞からの分化維持条件が確立されている心筋細胞への分化においては、初期段階でWntシグナル経路を活性化させた後、この経路を阻害することによって効率よく心筋細胞に分化することが判明している。iPS細胞の機能細胞への分化は、ターゲット遺伝子の阻害以前に当該ターゲット遺伝子の活性化を伴うことで成熟するものと仮定すると、スタウロスポリン/デキサメタゾン(St/Dex)がsrebf1a遺伝子を活性化させ、RA添加にserbf1a遺伝子が阻害されるトロホブラスト機能細胞への分化に適正な条件と考えられる。安定分化を目的としてSt/Dexを用いた分化条件について、ネガティブコントロール群とRA刺激によるポジティブコントロール群(PC群)、およびSt/Dex処理後RA刺激群を比較評価した。hCG分泌期間はPC群とSt/Dex処理群で有意差は認められなかったものの、hCG分泌期間はRA添加から約1週間程度維持され、胎盤関門様のモデル構築ができたものと考えられる。 分化iPS細胞による医薬品の胎盤透過評価系が、医薬品の透過係数、Fetal/Maternal比を測定できるレベルで構築された。そこで、in vitroからin vivoへの外挿をシミュレートするに適した生理学的速度論(Physiologically based pharmacokinetic: PBPK)モデル解析ソフトSimcypTM Simulator (Certara社)を導入し、腸管吸収のモデル因子となったCaco-2細胞層透過係数に類する、胎児移行性評価の可能性を探索する段階に至った。
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