研究実績の概要 |
抗体医薬品は標的となる分子にピンポイントで結合する特徴を有し、少ない副作用で優れた治療効果を示す。しかし、患者体内で抗薬物抗体(anti-drug antibodies, ADAs)産生を誘導する性質があり、ADAsが有効性や安全性に影響する場合もある。ヒト抗体医薬品であってもADAs産生が誘導されることから、これを低減させるためのさらなる方策が求められている。一方、我々は安定性が高い抗原蛋白質ほど、それに対する抗体産生が抑制されることを報告しており、この知見を抗体医薬品に応用できればADAs産生抑制法の開発につながる可能性がある。このような背景から、本研究課題はFab領域(Y字型をしている抗体の2本の手の部分)の安定性と抗体産生の相関性について調べ、Fab領域の安定化がADAsの産生抑制に有効であるか検証することを目的とした。 本研究課題では、マウス抗体由来の重鎖可変部(VH)と軽鎖可変部(VL)、ヒト抗体由来の重鎖定常部(CH1)と軽鎖定常部(CL)で構成されたキメラFabをモデル蛋白質としてアミノ酸置換による安定化を試みた。最終年度では、DSC(示差走査熱量測定)を用いて野生型、VH変異体、CL変異体、VH+CL変異体の熱安定性を比較した結果、VHのフレームワーク領域に疎水性アミノ酸を導入したVH変異体でFabの安定化が認められた。また、VH変異体と野生型をそれぞれマウスに投与し、抗原に対する抗体産生量をELISAで比較した結果、VH変異体投与マウスの方が抗原に対する抗体産生量が少ない傾向が見られた。本研究課題の成果から、Fabの安定化がADAs産生抑制につながる可能性が示唆された。また、今回作製した各種変異体においてVHに変異を導入したときにFabが安定化したことから、今後のFab安定化デザインにおける可変部フレームワーク領域の有用性が示された。
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