研究実績の概要 |
脳脊髄液 (CSF) 中の内因性物質の濃度異常は様々な中枢神経系疾患と関連することから、そのCSF中からの排出機構の解明は重要である。本研究では、「CSF中からの内因性物質の排出に寄与するクモ膜トランスポーターの同定」を目的とした。多くのトランスポーターは細胞膜を介して一方向に基質を輸送することが多いため、その細胞膜局在は、クモ膜トランスポーターがCSFへの物質供給に働くかCSFからの排出に働くかを左右する。そこで令和元年度 (初年度) では、クモ膜トランスポーター郡について、発現局在 (CSF側細胞膜, 血液側細胞膜) を網羅的に明らかにすることを目的とした。モデル動物として、遺伝学・解剖学・生理学的にヒトの生物学を反映するブタを選択した。ブタの軟髄膜 (クモ膜を含む) から粗膜画分を調製し、24%、27%、30%のスクロース溶液を用いて3つの膜画分へ分離した。定量的標的プロテオミクス法 (qTAP法) を用いて23種のタンパク質の各画分における絶対発現量を測定した。過去に報告した方法 (Kubo et al., 2015) を基に、MDR1を血液側細胞膜マーカー、OAT1をCSF側細胞膜マーカーとして対象タンパク質の血液側あるいはCSF側細胞膜への局在を推定した。結果、MATE1、BCRP、MRP4、OATP2B1、GLUT1の分布はMDR1 (血液側マーカー) と、OCT2、OAT3、PEPT2、MRP3、xCT、MCT1、MCT4、MCT8の分布はOAT1 (CSF側マーカー) と一致した。OCT2, MATE1の基質となるcreatinineはCSF中から排出されることが知られるが、その経路の90%以上は明らかになっていなかった。本結果から、クモ膜に発現するOCT2 , MATE1がCSF中からのcreatinine排出に寄与することが推察された。
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