研究課題/領域番号 |
19K16440
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
青木 重樹 千葉大学, 大学院薬学研究院, 講師 (30728366)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | エネルギー代謝 / がん / オートファジー / ミトコンドリア / 解糖系 |
研究実績の概要 |
本年度は、膵がん細胞や肺がん細胞、子宮頸がん細胞を用いて、解糖系の抑制を行った際にミトコンドリア代謝系へとシフトすること、さらにそのシフトがオートファジー依存的であることをメタボローム解析を中心に明らかとした。培養液中の糖源を置換する(グルコースを除去する)ことで解糖系を抑制することができるが、その時に細胞内における解糖系代謝産物の低下、TCA回路中間体の低下、多くのアミノ酸量の増加が認められ、がん細胞はダイナミックに糖代謝をシフトさせて生存し続けることが分かった。TCA回路中間体の低下は、ミトコンドリア代謝系が亢進したことによる中間体の消費の亢進によるものであることも示された。 また、解糖系の抑制に伴って多くのアミノ酸量が増加した一方で、グルタミンやグルタミン酸など、一部顕著に低下するものも認められた。詳細に検討した結果、グルタミンやグルタミン酸に関しては、解糖系の抑制時にα-ケトグルタル酸へと変換されてTCA回路へと流入していることが示唆され、増加したアミノ酸の一部は効率的なATP産生に寄与しているものと考えられた。 さらに、オートファジー依存的なミトコンドリアの賦活化機構であるマイトファジーについても検討した。具体的には、ミトコンドリア指向型のpH依存的な蛍光プローブを用い、解糖系の抑制に伴ってマイトファジーが亢進することを確認した。 本研究から、解糖系の抑制時にオートファジーは細胞内のタンパク質の分解などを通してアミノ酸を供給しており、その一部は直接的にATP産生に寄与することが明らかとなった。併せて、オートファジーはマイトファジーによるミトコンドリアの新陳代謝の役割も担っていることが示唆された。つまり、解糖系の抑制下では、オートファジーを中心にミトコンドリア代謝系を大きく亢進させ、生存するための抜け道を形成しているものと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの検討から、解糖系の抑制時にオートファジーが亢進することは示唆されていたが、それが代謝のリプログラミングにどのようにかかわるのかについて詳細に明らかとすることができた。加えて、ミトコンドリア特異的オートファジーであるマイトファジーが亢進していることも確認することができ、翌年度に計画している研究へとスムーズに向かうことができるものと認識している。
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今後の研究の推進方策 |
がん細胞におけるマイトファジーの制御様式についてはほとんど明らかとされていないのが現状である。そこでまず、どのような制御機構でマイトファジーが起こるのかを明らかとしていく。 本年度は糖源を置換することによって解糖系の抑制を試みたが、抗がん剤を含む薬物によっても同様の現象が認められるのか、代謝をリプログラミングすることで生き延びているがん細胞に対してはどのような処理(どのような併用薬の曝露)を行うべきであるのか検討していく。 研究が順調に進めば、担がんモデルマウスを作製し、動物個体内における代謝のリプログラミングの確認と、代謝変動を標的とした治療法の確立に向けた検討も行っていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初は種々の抗がん剤を用いてがん細胞内の代謝変動を検討する予定であったが、詳細なメカニズムをまず捉えたうえで広く行った方が効率的であろうと考え、本年度は解糖系の抑制を主として糖源の置換のみによって行った。本年度見出すことができた代謝リプログラミングの詳細なメカニズムをもとに、来年度は種々の薬物を用いて検討を行うことを予定しており、次年度使用額はそこに充てる予定である。
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