がん細胞は主として解糖系に依存して生存しているが、昨年度までで、解糖系を抑制されたがん細胞はミトコンドリアを中心とした代謝系にシフトできることを見出している。そのように、細胞内の代謝をリプログラミングすることで効率的にATPを産生し、生存し続けている。本年度はさらに、ATP産生オルガネラであるミトコンドリアに焦点を当て、解糖系の抑制時に認められる細胞内代謝リプログラミングの制御機構の解明を目的に、難治性がんの代表として膵がん細胞PANC-1を用いた検討を行った。 これまで、CE-TOFMSを用いたメタボローム解析の結果から、解糖系の抑制されたPANC-1細胞では、大半のアミノ酸量が顕著に増加していることが見出されている。細胞内のアミノ酸の代表的な供給経路の一つとして、タンパク質分解系であるオートファジーが挙げられ、解糖系の抑制されたPANC-1細胞におけるオートファジー活性を評価したところ、確かにそのフラックスが亢進している様子が認められた。 さらに、解糖系が抑制されたPANC-1細胞ではミトコンドリア機能が亢進していることから、ミトコンドリア選択的オートファジーであるマイトファジーに着目した。その結果、解糖系を抑制されたPANC-1細胞では、多くのミトコンドリアが酸性環境下に置かれ、マイトファジーの亢進が示唆された。また、正常細胞におけるマイトファジーを制御する因子としてセリン/スレオニンキナーゼであるPINK1が知られている。そこで、PINK1の発現を調べたところ、解糖系の抑制されたPANC-1細胞で発現の上昇が認められ、その機能の抑制時にはミトコンドリアの膜電位の低下が観察された。 以上の結果から、解糖系の抑制されたがん細胞では、PINK1依存的マイトファジーが代謝のリプログラミングに関与している可能性が示唆された。
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