研究課題/領域番号 |
19K16447
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
川見 昌史 広島大学, 医系科学研究科(薬), 助教 (20725775)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 上皮間葉転換 / 薬剤性肺障害 / 抗がん剤 / 肺胞上皮 / メトトレキサート |
研究実績の概要 |
本研究では、抗がん剤であるメトトレキサート(MTX)によるEMT誘発機構の解明を目的として、特にEMTに特異的な分子メカニズムを明らかにすることに焦点を置いている。 2019年度の検討によって、インテグリンα2サブユニットがMTXによって有意に上昇したことから、セルソーターによって分取する有用な細胞膜表面マーカーとなる可能性が示唆された。そこで2020年度では、インテグリンα2に着目した検討を行った。その結果、MTXによってインテグリンα2の細胞膜表面の発現が時間時存的に上昇した。さらに、インテグリンα2の阻害剤によってMTXによって誘発されるEMTが有意に抑制された。そこで、MTXによってインテグリンα2の細胞膜表面発現が最も高くなる144時間処置の条件で、セルソーターを用いて、インテグリンα2の高発現細胞と低発現細胞をそれぞれ分取し、EMTマーカーであるα-SMAのmRNA発現を解析したところ、インテグリンα2の高発現細胞におけるα-SMAの発現が、低発現細胞の場合と比較して有意に高かった。従って、インテグリンα2がMTXによるEMTの誘発に関与する可能性が示唆された。 また、p53の活性やストレス応答因子であるNrf2の転写活性がMTXによるEMTの誘発と良好に相関することも上記検討の過程から明らかにした。例えば、マルチキナーゼ阻害薬であるvandetanibは、MTXによるα-SMAの上昇を顕著に抑制し、また、p53の発現上昇も同様に抑制した。また、MTXによってNrf2の転写活性が減少すること、およびNrf2のノックダウンによって、α-SMAが上昇することなどを見出した。インテグリンα2と併せて、これらがEMTに特異的であるか否かについて更なる検討を行っていく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
インテグリンα2を指標にしたセルソーターでの分取法を確立することができ、分取した細胞間でEMTマーカーの発現の違いも確認することができた。従って、本研究目的であるEMTに特異的な誘発機構の一部を解明できたと考えている。一方、現在はメトトレキサートのみの検討に留まっていることから、ブレオマイシンなどその他の抗がん剤についても検討を水平展開していく必要があると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度となる2021年度では、分取した細胞をそれぞれRNAseqで解析し、網羅的な遺伝子発現変動の比較を行うことによって、EMTに特異的な因子群あるいは細胞内シグナル伝達経路の特定を行うことも目的としている。従って、インテグリンα2によって分取した細胞群を用いてRNAseqを行うことによって、未知のEMTに特異的な因子の探索を今年度の目標としており、インテグリンα2のMTX以外の薬物への反応性と併せて、本研究の総括的な評価を行っていきたいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度にはMTXによる網羅的な遺伝子発現変動解析をRNAseqで解析予定であったが、インテグリンα2による細胞の分取後のRNA-seqを行わなかったため、その分の金額が次年度使用額へと計上された。2021年度では、インテグリンα2を指標とした細胞の分取を行い、その後RNA-seq解析を委託する予定である。
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