研究課題
バンコマイシン(VCM)はメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)感染症に対する標準治療薬である。重篤な有害事象であるVCM関連腎障害(VIN)は、血中濃度に依存して高率に発症するため、薬物治療モニタリング(TDM)による予防が標準的である。しかしTDMを行っても、VCM関連腎障害の完全な抑制は困難であるため、VCM関連腎障害の発症機序に基づく新規予防策の確立は喫緊の課題である。本研究では、既存薬の新たな薬効を見出すドラッグリポジショニングにより、VCM関連腎障害の新規予防薬開発を行った。VINに関与する遺伝子を文献レビューにより同定し、その発現変化を打消す既存承認薬を創薬データベースLINCSにより検索した。また、VINリスクを低下させる薬剤をFDA有害事象自発報告データベース(FAERS)により検索した。共通して抽出された既存承認薬の同種同効薬 2薬剤を予防薬候補として、HK2(ヒト近位尿細管)細胞を用いたVCM誘発細胞障害およびVINモデルマウスの腎障害に対する影響を指標に予防薬候補の有効性を評価した。その結果、2つの候補薬剤はいずれもVCMによるHK2細胞障害およびVINモデルマウスの腎障害を有意に抑制した。VCMを投与した後方視的解析の結果、2薬剤の投与はVIN発症率を有意に抑制した。以上、ビッグデータ解析から得られた予防薬の効果は、基礎研究および臨床研究で確認できている。
2: おおむね順調に進展している
本研究は、VINの新規予防薬開発をビッグデータ解析、基礎研究、臨床研究との融合により行うものである。これまでにビッグデータ解析で得られた予防薬候補の2薬剤の効果を、モデル動物と培養細胞を用いた系により検討し、VINの予防効果が確認された。また、その有効性はVCM投与症例を用いた後方視的検討でも確認されている。以上、ビッグデータ解析、基礎研究、臨床研究において、一致した結果が得られていることから、本研究はおおむね順調に進展していると判断した。
複数のビッデータ解析で得られた予防候補薬は、基礎研究と臨床研究により効果が認められた。今後は培養細胞やモデル動物による作用機序の同定や、臨床研究による薬物動態への影響など、より詳細な検討を進めていく予定である。
研究成果の発表を行うために出張した旅費の支払いが、4月支払いとなったこともあり、次年度使用が生じた。その他は、次年度請求額と合わせて2020年度の予定通り予算を執行する予定である。
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