本研究では、光照射による化合物の異性化反応を主軸として、医薬品の対する光安定性を検討や不斉誘起反応、異性化反応の開発を行った。 初めにキラルなスルホキシドを有する医薬品やその関連化合物に対して光エネルギーによる光学純度の低下が起こるか検討し、スルホキシドの光学純度が 低下する構造的要因を明らかにしてきた。その結果、可視光光増感剤存在下、LEDによる可視光照射により、瞬時に(<1 min)キラルスルホキシドがラセミ化することを見出した。 この成果を基に、3年目以降スルホキシドのラセミ体について可視光と光増感剤による不斉誘起反応の開発と医薬品合成への応用を行った。その結果、HPLCリサイクルシステムの流路内に固相担体に光増感剤を結合した固相光増感剤と光照射部を組み込んだリサイクルフォトリアクターを作成し、実用性の高い動的不斉誘起法を開発した。本法は、HPLCリサイクルシステムの一連の作業内で行うことができ、ラセミ体から所望のエナンチオマーを持つスルホキシドをスイッチの切り替えで高収率、高光学純度の目的物を作り分けることが可能である。さらに適用拡大を目的に、アルケンのE/Z異性体に適用し、光異性化反応を応用したZ-アルケンの合成を行った。光増感剤存在下可視光照射によるアルケンの光異性化を検討し、条件をリサイクルフォトリアクターへ適用した。その結果、容易に合成可能なE-アルケンから熱力学的に不安定なZ-アルケンを高収率で得た。 アルケンの光異性化反応は医療現場において多用されるビタミンB2(リボフラビン)も光増感剤として作用するため、医薬品とビタミン類を混合して用いる点滴を想定し、E-アルケンを持つ医薬品の光異性化の有無を検討した。その結果、E-アルケンを持つ医薬品は生物活性も持たないZ-アルケンへの異性化が迅速に進行し、医薬品の光安定性について注意が必要である可能性を見出した。
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