研究課題/領域番号 |
19K16460
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研究機関 | 同志社女子大学 |
研究代表者 |
木村 峻輔 同志社女子大学, 薬学部, 助手 (70792274)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 粉末吸入製剤 / 肺炎 / ニューキノロン系抗菌薬 / 非晶質固体 |
研究実績の概要 |
肺炎に対する標準的治療は、主に注射又は経口の抗菌薬を用いた薬物療法であるが、肺への薬物送達効率を考慮すると、現在の薬物療法には限界がある。一方で、喘息などの呼吸器疾患に対しては、吸入製剤が頻繁に用いられる。吸入製剤の場合、薬物を気道や肺内に直接投与可能なため、注射などと比較して薬物送達効率が格段に高く、肺炎治療にも有用性があるのは明らかである。しかしながら、抗菌薬の中には、溶解性や膜透過性が低いものも少なくないため、吸入製剤化には薬剤学的な課題の克服がカギとなる。そこで、本研究では従来とは異なる新規生体膜透過機構を基盤とするシプロフロキサシン(CPFX)粉末吸入製剤化を検討した。 まず始めに、CPFX 非晶質製剤化に関する検討を行ったところ、低分子のアミノ酸を co-former として混合ボール粉砕すると非晶質製剤化が可能であることを確認した。そこで、物性の異なる3つのアミノ酸、アルギニン(ARG)、システイン(CYS)及びアスパラギン酸(ASP)を co-former として選択し、各種CPFX非晶質製剤(CPFX-ARG、CPFX-CYS、CPFX-ASP)を作製した。次に、CPFX原末(結晶製剤)及び各非晶質製剤からの脂質人工膜透過性評価を行った。結果として、結晶製剤と比較して、全ての非晶質製剤において累積膜透過量が増大したことから、CPFX非晶質化による新規機構に基づいた膜透過性改善が示された。特に、CPFX-ASPは、非晶質製剤の中で膜透過性が最も良好であった。固体物性分析より、CPFX-ASPでは非晶質製剤中CPFXの状態が他とは明らかに異なり、非晶質製剤間での膜透過性の違いが固体状態に起因したものと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
H31年度(R元年度)では、主にCPFX非晶質製剤化を検討したが、当初予定していた作製方法では幾つか問題点があったため、全工程を乾式で行うボール粉砕法を試みた。その結果、物性の異なる様々な非晶質製剤が得られ、合わせて膜透過性評価も進んだことから、進捗状況は概ね順調である。さらに、一部実験動物を用いた in vivo 検討にも取り組んでおり、R2年度では in vitro で得られた結果を基に、各種製剤吸入投与後の体内動態評価による新規粉末吸入製剤の有用性を明らかにする予定である。
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今後の研究の推進方策 |
前年度では、物性の異なる種々のCPFX非晶質製剤を作製し、物性の違いによる膜透過性への影響を明らかにした。本年度は、膜透過性の異なる各種粉末製剤を用いてin vivo体内動態評価を行う。既に、結晶製剤による既存の方法(静脈内投与または経口投与)と経肺吸入投与を比較し、吸入投与後の高い肺滞留性が確認され、さらに非晶質製剤の有用性を実証する。加えて、体内動態評価を並行して、引き続き種々の製剤添加物を用いた非晶質製剤の作製も行い、機能性の高い粉末吸入製剤を開発する。
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次年度使用額が生じた理由 |
僅かな残金が生じたものの、本年度交付された金額のほぼ全額を執行した。残額については、次年度の物品費に充てる。
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