新薬の開発には10年以上という長い期間と莫大な資金が必要であるにもかかわらず,成功率は極めて低く,近年は新薬の創出が困難になっている。このような背景の中,ドラッグ・リポジショニングが注目されている。本研究では,リアルワールドデータの1つであるレセプトデータベースを中心として,有害事象自発報告データベースやバイオインフォマティクス関連データベースを統合解析することでドラッグ・リポジショニング候補薬剤の戦略的なスクリーニング法の基盤構築を目的とする。これまで,種々のデータベースを用いてドラッグ・リポジショニングにおける仮説の生成を試みてきた。2022年度では,リアルワールドデータを用いた仮説検証型の研究デザインであるコホート研究やケースコントロール研究の実施を試みた。リアルワールドデータでは診療報酬情報であるレセプトデータベースを使用したが,このデータには診療報酬を算定するためのデータが格納されており,必ずしも研究の目的とする曝露やアウトカムをスムーズに検出できるわけではない。2022年度では,これら曝露やアウトカムなどのデータを如何にして効率よくビッグデータの中から抽出し,もっともらしい真実を導き出すことができるかという問いに対して研究を進めた。まずは,試みとして,曝露:直接経口抗凝固薬とアウトカム:出血,認知症との関連性をコホート研究にて検討した。時間依存性共変量の取り扱いに苦慮し,医薬品の曝露を検討する際は,コホート内症例対照デザインの方が優れているのではないかと考えた。そこで,続いて,曝露:スタチン製剤とアウトカム:非アルコール性脂肪性肝疾患との関連性についてコホート内症例対照研究を実施した。医薬品の曝露をアドヒアランスという形で評価することで,アドヒアランス良好群と不良群との比較が可能となり,アウトカムとの関連性を明らかにすることができた。
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