本研究では、申請者らの研究室において開発された新規吸収促進剤の膜透過ペプチド固定化ヒアルロン酸を用いた抗体医薬の経鼻吸収促進技術の開発を目指している。昨年度までの検討により、同ヒアルロン酸誘導体の一つであるテトラグリシン-L-オクタアルギニン固定化ヒアルロン酸(G4R8-HA)が分子量約5万から15万までの幅広い分子量の抗体医薬の経鼻吸収を可能にすること、並びに同分子の吸収促進機構としてシンデカン-4を介したマクロピノサイトーシスが関与することが示唆された。 今年度は昨年度に引き続きマクロピノサイトーシス阻害剤を用いてG4R8-HAの吸収促進機構について検証を行った。さらに、本ヒアルロン酸誘導体の構造最適化を目的として、短鎖オリゴアルギニン固定化ヒアルロン酸であるジグリシン-L-ジアルギニン固定化ヒアルロン酸(G2R2-HA)およびジグリシン-L-テトラアルギニン固定化ヒアルロン酸(G2R4-HA)を用いたマウス経鼻吸収促進効果の比較を行った。 in vitroにおける阻害試験の結果、G4R8-HAによるラニビズマブおよびトラスツズマブの細胞内取り込み増加はマクロピノサイトーシス阻害剤であるEIPA処理により有意に抑制された。さらにin vivo試験においても、G4R8-HAによるラニビズマブのマウス経鼻吸収促進はEIPA処理により有意に抑制された。また、ラニビズマブのマウス経鼻投与における短鎖オリゴアルギニン固定化ヒアルロン酸の吸収促進効果を比較したところ、G2R4-HAはG4R8-HAと同等の経鼻吸収促進作用を有することが明らかになった。 以上の結果から、本ヒアルロン酸誘導体の経鼻吸収促進効果にはマクロピノサイトーシスが関与すること、および抗体医薬の経鼻吸収促進には4残基以上のアルギニン側鎖を有する同誘導体が有用であることが示唆された。
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