オキサリプラチンやイリノテカン (CPT-11) は大腸がんの化学療法に使用される抗がん剤であるものの、その効果は患者によって大きく異なることが知られている。そのため、患者ごとに適した抗がん剤を選択する個別化医療の推進を可能とする治療前診断技術の開発が待ち望まれている。また、大腸がんに使用できる抗がん剤は限られており、効果を増強する新規ストラテジーの開発も必要とされている。microRNA (miRNA) は細胞内でmRNAのタンパク質への翻訳を阻害し、細胞の機能や生理現象に関与する。近年、miRNAは細胞外膜小胞であるエクソソームにも含有され、細胞外のエクソソーム中miRNA は放出した細胞の状態を反映することが明らかになっている。 本研究では抗がん剤の効果を増強するmiRNAを見出すことを目指し、検討を行っている。また、エクソソーム中のmiRNAが非侵襲的効果予測法に応用が可能ではないかと着想し、各種抗がん剤の治療効果を反映する細胞外エクソソーム中miRNAの探索も併せて実施する。 昨年度はオキサリプラチンの感受性を増強し、かつ非侵襲的バイオマーカーとなるmiRNAを見出した。そこで、本年度は新たにCPT-11耐性がん細胞を作製し、CPT-11の感受性に関与し、バイオマーカーとなりえるmiRNAの探索を試みた。そのために、まず、CPT-11に対してのみ耐性を持つがん細胞を樹立した。次に、マイクロアレイ及びRT-PCRで耐性細胞で発現量が変化しているmiRNAを探索した。その結果、一種類のmiRNAの発現量に変化が見られたが、そのmiRNAはCPT-11の感受性には影響を及ぼさなかった。また、細胞外エクソソームにおいてその発現を観察できなかった。そのため、miRNAを利用したイリノテカンの効果増強・非侵襲的効果予測法の開発には更なる検討が必要である。
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