研究実績の概要 |
本年度は、経鼻投与後の鼻から脳への直接的薬物移行をより効率的に達成できる経鼻投与型製剤の開発を指向した製剤研究を遂行した。経鼻投与型製剤の開発では、投与量確保と鼻腔内滞留性改善が重要な課題となる。そこで本研究では、経鼻投与型製剤として固形製剤化を試みた。また、鼻腔内滞留性改善を目的としてポリマーを混合した際のポリマー添加の影響を評価した。 モデル薬物として抗炎症薬ketoprofen, flurbiprofen, ibuprofen, loxoprofenを選択し、ポリマーとしてHPMC, PVP, alginate-Naを用いた。各モデル薬物の各種ポリマー添加溶液を真空乾燥することで粉末固形化した。調製製剤について、粉末X線回析、示差走査熱量測定、電子顕微鏡観察により物性解析した結果、真空乾燥により均一フィルム状の固形製剤となり、HPMC及びPVP添加では非晶質製剤、alginate-Na添加では薬物結晶が残存する製剤となることが明らかとなった。さらに、鼻粘液に対する薬物溶出性を評価するため、人工鼻粘液表面に製剤を適用し、経時的な薬物溶出濃度を定量することで各種製剤の溶出挙動を観察した。薬物溶出率がPVPで2-3倍、HPMC及びalginate-Naで4-5倍高くなり、ポリマー添加による溶解性改善が認められた。本成果から、溶解性改善した経鼻投与型製剤の開発が可能であることが示された。 現在、本製剤をラット鼻腔内に投与後の脳移行性に関する薬物動態学的評価を遂行しており、製剤化の有用性を明らかにする予定である。本研究成果は、経鼻投与経路を利用した中枢神経系疾患の治療薬を開発する上で重要な製剤的知見となる。今後、本検討で得られた成果に基づき、抗炎症作用を有するモデル薬物を用いた経鼻投与後の脳移行特性を評価し、神経炎症に対する治療効果を検討する予定である。
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