研究課題/領域番号 |
19K16470
|
研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
小林 裕人 山形大学, 医学部, 准教授 (40588125)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 壁細胞 / 胃 / エストロゲン / アロマターゼ |
研究実績の概要 |
胃壁細胞の代表的な機能は胃内腔への胃酸の分泌であり、影響因子を始めとした詳細な作用機序が解明され、広く知られているが、他にも様々な機能を有している。近年、ラットを用いた検討によって、壁細胞がエストロゲン合成酵素のアロマターゼを有し、多量のエストロゲンを合成、門脈へと内分泌していることが明らかとなった。胃のエストロゲン産生能は卵巣と同程度の遺伝子発現量や酵素活性を示し、性差はなく、性周期にも左右されることなく恒常的に機能していることが報告されているが、何によって制御されているのか、また何の為に行われているのかなど、基礎的研究は不十分である。 昨年度はヒト胃癌由来細胞株MKN45を用いて、胃酸分泌調整因子であるヒスタミンやアセチルコリン添加がアロマターゼタンパク質発現に与える影響を検討し、これらの因子は影響を及ぼさないことを確認した。今年度はさらに、他の胃酸分泌調整因子であるガストリン、プロスタグランジンE2、ヒドロコルチゾン、黄体ホルモン放出ホルモン、カルシウム、cAMPについて検討した。その結果、いずれの因子もMKN45のアロマターゼタンパク質発現には影響を及ぼさないことが明らかとなり、壁細胞におけるエストロゲン産生は胃酸分泌とは異なる制御機構であることが示唆された。 一方、老齢ラットを用いた検討では、24ヶ月齢でも胃粘膜上皮中にアロマターゼは発現していることが明らかとなった。しかし、18ヶ月齢における門脈血中のエストロゲン量は3ヶ月齢と比較して減少し、加齢に伴う胃のエストロゲン産生の変化は胃粘膜上皮中の壁細胞の減少に起因していることを見出した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
エストロゲンの主要な産生組織として知られる卵巣以外でも、副腎、胎盤、皮膚、脂肪組織等でアロマターゼは発現しており、組織特異的に調節されている。アロマターゼの組織特異的調節は、それぞれが異なるホルモン因子とセカンドメッセンジャーシグナル伝達経路によって調節される、別々のプロモーターによって行われることが知られている。 ヒト胃癌由来細胞株MKN45は卵巣、脂肪や骨組織に発現するアロマターゼと同じプロモーター領域を複数有していると報告されていることから、これらの調節因子を踏まえた検討を行なってきた。その結果、昨年度のヒスタミンとアセチルコリンに加え、ガストリン、プロスタグランジンE2、ヒドロコルチゾン、黄体ホルモン放出ホルモン、カルシウム、cAMPの培地添加もMKN45のアロマターゼタンパク質発現には影響を及ぼさないことが確認された。 しかし、アロマターゼの発現機序は未だ不明な点が多く、これまでの結果から、壁細胞におけるエストロゲン産生は胃酸分泌とは制御機構が異なる可能性も考えられ、制御因子の同定には至っていない。アロマターゼ発現はエストロゲンのフィードバック強度によって変動することや、調節因子によっては同一組織内でプロモーターが切り替わることも報告されている。このことから、胃酸分泌経路を加味しつつ、あらゆる角度からin vivo、in vitro双方で引き続き解析を行っていく。
|
今後の研究の推進方策 |
壁細胞の胃酸分泌経路は主に「ECL細胞から分泌されるヒスタミンがH2受容体に結合」、「迷走神経から分泌されるアセチルコリンがM3受容体に結合」、「胃幽門部G細胞から分泌されるガストリンがCCK2受容体に結合」する経路が知られている。しかし、ヒスタミンとアセチルコリンに加え、ガストリンを含む本年度までの研究結果から、MKN45におけるアロマターゼタンパク質発現は主要な胃酸分泌の調節因子による影響が認められず、壁細胞におけるエストロゲン産生は胃酸分泌と異なる制御機構下にある可能性が示唆された。 一方、胃酸分泌抑制因子βとしても知られる上皮成長因子(Epidermal Growth Factor; EGF)は卵巣のアロマターゼ発現を抑制すること、加齢によってラットの胃粘膜上皮中のEGF受容体が増加してEGFの感受性が高まること等が明らかとなっているが、壁細胞におけるエストロゲン産生への影響は追及しきれていない。特にEGFは主に唾液腺から分泌されることから、in vivoでは唾液腺を含めた実験系、in vitroでは引き続きMKN45を用いた実験系で壁細胞におけるエストロゲン産生の制御機構について、その他の因子も含めて検討していきたい。
|