真核生物が持つ分解系の一種オートファジーについて、生体膜の主成分であるホスファチジルコリン(PC)を合成するKennedy経路が関わる『長時間にわたって継続するオートファジーを維持する』機構を明らかにすることを目的にKennedy経路の律速酵素CTP:phosphocholine cytidylyltransferase(CCT)のアイソザイムCCTβ3に着目した解析を行った。申請者はこれまでに、マウス線維芽細胞においてCCTβ3の活性が長時間飢餓条件下におけるオートファジーの活性の維持おいて重要であることを見出していたが、今回新たに癌細胞の増殖においても重要な役割を果たす可能性を見出した。骨肉腫細胞U2OSにおいて長時間の飢餓条件下ではCCTβ3が脂肪滴へとリクルートされ、このときGFP-LC3陽性のオートファジー膜が伸長する様子がライブ観察により明らかとなった。さらにCCTβを欠損させると短時間飢餓条件下におけるオートファジー活性には影響を与えないが、長時間飢餓条件下での活性については有意に減少することを見出した。またCCTβを欠損させた腫瘍細胞の長時間飢餓時の生存率が著しく減少することも明らかとなった。さらにCCTβを欠損させた細胞にCCTβ3を入れ戻すことで欠損に伴うフェノタイプが改善されることも明らかとなった。これら点からCCTβ3がもつオートファジーにおけるユニークな機能が明らかとなった。本研究によって得られた成果は、腫瘍細胞などで見られる長期的なオートファジーに標的を絞った阻害剤の開発に寄与する知見を提供するだけでなく、これまで報告がなかった全く新しいオートファゴソームへの膜脂質供給機構の一端を明らかにした。これらの成果をまとめた論文が2020年9月にnature communicationsよりパブリッシュされた。
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