研究実績の概要 |
本研究に先立ち、筆者はショウジョウバエを用いたゲノム規模の遺伝学的スクリーニングにより、ピロリ菌産生タンパク質であるCagAの標的分子としてLow density lipoprotein receptor(LDLR)を同定している。そこで、本研究では「CagA蛋白質がLDLRとの結合を介してLDLの細胞内への取り込みを阻害する」ことの証明を目的とし研究を進めている。 これまでの成果として、細胞内でCagAとLDLRが物理的に直接結合することや、両者が細胞内で共局在することを確認した。さらに、実際にCagAによりLDLの細胞内への取り込みが阻害されるのか調べた。LDLR高発現のヒト肝癌細胞株であるHepG2細胞に、蛍光標識したLDLの細胞内への取り込ませ、CagA発現時に細胞内へ取り込まれるLDL量が変化するか検討した。その結果、CagAの発現により、細胞内へのLDL取り込みが有意に低下した。 以上のことから、CagAがLDLRと直接結合し、LDLの細胞内への取り込みを阻害することが証明できた。ここまでの研究成果は、論文にて報告した(R Ninomiya et al., BBRC, 2021)。 以上の成果を踏まえて、より生理学的な検討を行うために、スナネズミへのピロリ菌感染実験を実施している。CagAを欠失させたピロリ菌を遺伝子改変技術により作製し、この変異型ピロリ菌とCagA陽性ピロリ菌をそれぞれスナネズミに経口投与にて感染させた。現在、スナネズミへのより効率的な感染条件を検討中である。 ピロリ菌感染が全身性疾患を引き起こす機序は明らかになっていなかったが、本研究によって、CagAをもつピロリ菌感染と高コレステロール血症およびこれに伴う虚血性心疾患との因果関係の一端を明らかにすることができた。今後さらなる解析を実施する予定である。
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