研究実績の概要 |
痛みは様々な疾病においてQOLを著しく低下させる因子でもある。疼痛の発生メカニズム及び神経系における伝達機構は多様であり、その全貌は明らかではない。我々は痛み刺激に対する反応が著しく低下したBACトランスジェニックマウス(以下、TGマウス)の順遺伝学的解析から、疼痛原因遺伝子の同定とその機能解析を行なった。 我々が疼痛鈍麻の表現型を見出したTGマウスは、BACトランスジーンの挿入領域における内在性遺伝子の発現阻害もしくは発現の変動が見られた。その結果、発現低下が生じた遺伝子 Sorting nexin (以下Snx)が疼痛刺激に対する行動変化を起こすことを明らかとした。 Snx ノックアウト(KO)マウスは、TGマウス同様に機械刺激および化学刺激に対する反応が著しく低下した。また興味深いことに、Snx KOマウス2ヶ月齢では熱刺激に対する痛み行動は野生型マウスと全く変わらないものの、8カ月齢で熱刺激に対する痛み行動が減弱するという結果が得られた。これは、機械刺激、化学刺激、熱刺激に対する疼痛発生機序にも時期特異的な違いがあることを示唆し、その制御因子としてSnxおよびその下流因子が関与している可能性が高いと考えられる。一方で疼痛発生時に機能が亢進する疼痛関連因子(TRPV1, Nav1.7, Trk等)の発現を調べた結果、Snx KOマウスでは後根神経節におけるこれらの発現が著しく低下していることを見出した。これらの結果から、Snxは疼痛関連因子の発現を調節し機械・化学・熱刺激の多様(ポリモーダル)な刺激に反応する疼痛発生に重要な因子であることを明らかにした。今後はその詳細を解明することが課題である。
|