研究課題
本課題の目的は,脊椎動物において保存された「精巣―精巣上体間の接続に関わる因子」の同定から,精路形成機構の共通点=基本原理を明らかにすることである。そのためには,網羅的遺伝子発現解析を行い,関連する因子・シグナリングの候補を得る必要がある。しかしながら,精巣―精巣上体間の接続に関しては,マウスにおいてすら基礎的知見が欠けていた。すなわち,網羅的遺伝子発現解析を行うためのサンプルを得るべき発生日数や採取すべき細胞種が同定されていなかった。そこで,まず2019年度は網羅的遺伝子発現解析を行う動物種であるマウスにおいて,発生過程において接続に関わる基礎的知見を得た。C57BL/6Jの未分化生殖腺を時系列的にサンプリングし,それらの連続切片を用いてseqential immunohistochemistry法により,各種細胞マーカーを検出した。この方法を用いることで,同一切片において,一般的な蛍光観察で行える多重染色の数より多くのマーカーを検出することができた。その結果,雌雄にかかわらず,精巣または卵巣に分化する以前の発生段階の時点で既に,接続していることが認められた。具体的には,成獣では精巣と精巣上体の間を繋ぐ精巣輸出管に分化するといわれている中腎細管の上皮細胞と生殖腺体細胞が接しており,基底膜もそれらを取り囲むように存在していた。また,中腎細管上皮細胞と接する生殖腺体細胞のマーカーとしてAd4BP/SF-1を同定した。これらの知見をまとめて英語論文として報告した(Dev Dyn, in press)。
2: おおむね順調に進展している
まずはマウスにおける基礎的知見として,未分化生殖腺から精巣または卵巣へと運命が決定される時期において,雌雄にかかわらず生殖腺体細胞と中腎細管とが接続していること,ならびにその生殖腺体細胞のマーカーとしてAd4BP/SF-1が有用であることが明らかとなった。これらの知見をまとめて英語論文として報告した(Dev Dyn, in press)。上記の基礎的知見が得られたため,網羅的遺伝子発現解析を行うサンプルの採取時期や細胞種などが決定できた。また,接続に関わるシグナリングの同定のために,Ad4BP/SF-1を発現する細胞がeGFPで標識されるマウスを入手し,現在,繁殖を進めている。同時に,他の細胞種も得られるような方法について条件検討を行なっており,2020年度中には次世代シーケンサーを用いた網羅的遺伝子発現解析が行える予定である。
2020年度は,網羅的遺伝子発現解析をメインに進めていき,Ad4BP/SF-1発現生殖腺体細胞と中腎細管との間で働くシグナリングの候補を挙げる。また,平行してマウスや哺乳類以外の脊椎動物種の精路について三次元的解析を進めていき,形態としての相同性を解析する予定である。
2020年3月末に予定されていた日本解剖学会が中止になり,予定していた旅費の支出がなかったため,次年度使用額が生じた。これらは,2020年度に行う予定の網羅的遺伝子発現解析に関わる消耗品費として使用する予定である。
すべて 2020 2019
すべて 雑誌論文 (9件) (うち査読あり 9件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (3件)
Developmental Dynamics
巻: In press ページ: In press
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