プロバイオティクスはヒトに食経験があり、基礎研究で抗癌作用を発揮することが示唆されていることから安全性の高い癌治療への応用が期待されてきた。しかし、生菌体を用いた場合、菌の培養条件の差や宿主の腸内細菌叢の個体差などのため、臨床的な抗癌作用は証明されていない。その解決案として、プロバイオティクス由来抗腫瘍物質を同定し十分量を投与することで、安定した抗癌作用が得られると考えた。これによってプロバイオティクスの抗腫瘍メカニズムが明らかになるとともに安定な抗腫瘍薬を開発することができる。これまで申請者は麹菌の培養上清が強力な抗膵癌作用を発揮すること、およびその抗腫瘍メディエーターがHeptelidic acidであることをNMR解析および高分解能LC-MS解析により明らかにした。また、Heptelidic acidは消化管を透過して膵組織に到達し、膵癌細胞のp38MAPKの活性化を誘導すること、これによって細胞周期に干渉し、細胞死を誘導することで膵癌に対して抗腫瘍作用を発揮することを明らかにした。また、Heptelidic acidは膵癌のみならず難治性癌である悪性黒色腫や進行大腸癌細胞、白血病細胞、脳腫瘍細胞など多種類の癌細胞に対して抗癌作用を発揮すること、およびその作用メカニズムはGAPDH阻害に基づく腫瘍細胞の解糖系の異常に伴うATPの枯渇であることを証明した。さらに、Heptelidic acidによるin vivoの抗腫瘍効果は腫瘍組織内でGAPDHを阻害することで発揮されており、これに伴う薬剤誘発性の有害事象(肝障害や腎障害、体重減少など)は確認されなかった。
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