研究課題/領域番号 |
19K16486
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研究機関 | 群馬大学 |
研究代表者 |
天野 出月 群馬大学, 大学院医学系研究科, 講師 (10765275)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 甲状腺ホルモン / 転写抑制型共役因子 / NCoR1 / NCoR2 / SMRT / 脳発達 / 認知学習機能 / 社会性行動 |
研究実績の概要 |
甲状腺より産生される、甲状腺ホルモン(TH)は周産期の神経発達に必要不可欠なホルモンの一つで、成体期では神経機能の維持に必須である。THは標的臓器細胞に取り込まれ、標的遺伝子のTH応答領域に結合するTH受容体(TR)に結合し、標的遺伝子の発現を転写レベルで制御する。TH非結合時には、抑制型転写共役因子であるnuclear receptor corepressor(NCoR)からなるコリプレッサー複合体により転写が抑制され、TH結合時には活性型共役因子により転写が活性化される。しかし、THによる神経系への作用機序、特に転写共役因子による制御機構は未だ不明である。そこで本計画では転写機抑制型共役因子の中枢神経系ノックアウトマウスモデルを作製し、網羅的に解析することによりその全貌を明らかにすることが目的である。前年度は神経細胞特異的な転写抑制型共役因子遺伝子(NCoR1/SMRT)ノックアウトマウスモデルを作製し、ダブルノックアウトマウスは生後2週間以内に致死であることを見出した。 そこで本年度は成獣SMRTノックアウトマウスを作出し、その評価を行った。結果、本ノックアウトマウスは形態学的には明らかな異常は認めない一方で、認知学習機能や社会行動性の異常を来すことを見出した。これらの結果から神経細胞における転写抑制型共役因子は成獣においても神経活動の維持に重要な役割を果たすことが明らかになった。今後は引き続きNCoR1ノックアウトの作出とその評価を、また脳領域特異的なノックアウトマウスを作出して解析を進めていく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
NCoR1/SMRTダブルノックアウトマウスが、生後2週間以内に致死であることから、本年度はNCoR1/SMRTの単一遺伝子の神経細胞特異的なノックアウトマウスを作製することが目標であった。SMRTノックアウトマウスを作出し、その行動学的評価を行うことができ、現在は分子生物学実験によりそのメカニズムを解明している最中である。また、引き続きダブルノックアウトの生後早期の致死の原因の解明も行っている。当初計画したノックアウトマウスモデルの作製に成功し、その生物学的特徴の一端を明らかにすることができた。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策として以下の3点に取り組む。 1) NCoR1の神経細胞における役割の解明:成獣NCoR1ノックアウトマウスの作出を引続き行い、表現型の解析を行う。 2) SMRTの神経細胞における役割の解明:既に作出した成獣SMRTノックアウトマウスを用いて、神経細胞におけるSMRTの分子メカニズムを解明する。1)で作成したマウスとの比較によりNCoR1/SMRTの役割の違いを明らかにすることが最終目標である。表現型の解析を行ったうえで、感受性の高い脳領域を同定する。同部位の網羅的遺伝子発現解析を行うことを想定している。 3) なぜNCoR1/2ダブルノックアウトマウスは出生後2週間で死亡してしまうのか?ダブルノックアウトマウスは他の遺伝子型と同様の割合で出生し、出生直後の体重などに有意な差は認めない。また行動学的な神経学的発達評価を行ったが明らかな異常所見を認めなかった。このことから神経細胞におけるNCoR1/2は生体機能の維持に必須であるが、出生後の直接的な死因は神経細胞死等ではないこと予想される。形態学的にも明らかな差異はなく機能異常の存在が示唆される。全身の臓器を網羅的に評価する必要があり、分子生物学的手法を用いて解析をすすめていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度は新型コロナウィルス感染症蔓延により、大学構内への立ち入りが一時的に制限また実験動物の飼育数の縮小が求められた。これにより実験の進捗状況に遅れが生じた。このことから次年度使用額が生じた。
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