前年度は、gp130受容体の阻害薬(SC144)を新生児マウスに投与すると、心筋細胞の生理的な分裂増殖が抑制され、左心室収縮能が低下することを明らかにした。本年度は、遺伝的にgp130を欠損したマウスを作製し、その解析を行った。 loxp-STOP-loxp-Caspase9配列を持つトランスジェニックマウスに、心筋トロポニンTプロモーターで駆動されるCreとgp130標的ガイドRNAを含むアデノ随伴ウイルス(AAV)を感染させ、心筋細胞特異的にgp130遺伝子をノックアウト(cKO)した。はじめに、心筋細胞の分裂増殖についてEdUを用いた細胞増殖アッセイを行った。生後1日目にAAVを皮下注射し、4日目にEdUを皮下投与することで増殖細胞をマーキングした。5日目に心臓を回収し、蛍光染色を行ったところ、gp130 cKOマウスでは左心室の心筋細胞の分裂増殖頻度が有意に低下していた。続いて、AAV投与後20日目に心エコーと心臓病理組織解析を行った。gp130 cKOマウスでは有意に左室収縮率が低下しており、左心室の心筋層が薄くなっていることが確認された。さらにこの時、左心室にある心筋細胞の総数が有意に減少していることがStereology解析(二次元組織切片から三次元組織構造を推定する解析技術)によって明らかになった。gp130は複数のリガンド分子を有する。そこで、新生児の心筋細胞の分裂増殖において、どのリガンド分子が重要であるかについてin vitroで検証を行った。生後1日目のマウスから単離した心筋細胞にリコンビナントタンパクを添加し、その作用を調べたところ、インターロイキン6(IL6)を添加すると顕著に心筋細胞の分裂増殖が亢進することがわかった。 以上のことから、IL6/gp130シグナルは、生下直後の心筋細胞の分裂を正に制御しており、心臓の発達に重要であることが示唆された。
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