研究課題/領域番号 |
19K16491
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研究機関 | 大分大学 |
研究代表者 |
粂 慎一郎 大分大学, 医学部, 助教 (90794579)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | イオンチャネル / hERGチャネル / 構造機能連関 / 分子生物学 / 電気生理学 |
研究実績の概要 |
電位作動性カリウムチャネルファミリーに属するhERGチャネルは、電位センサードメイン(VSD)とポアドメイン(PD)が同じサブユニット間で相互作用するという、同ファミリーでは見られない独自の構造(Non-domain swapped構造)をとる。申請者はこれまでに、VSDとPDを細胞内で繋ぐS4-S5リンカードメイン(S4S5LD)とC末端細胞内のCリンカードメイン(CLD)との間に、この構造的特徴に伴う独自の相互作用が存在し、このチャネルの特徴である遅い脱活性化の制御に関与していることを見出してきた。 本研究では、このS4S5LDとCLDとの間に形成される相互作用に焦点を当て、①相互作用に最も重要な部位(アミノ酸ペア)はどこか、②相互作用部位がチャネルの開閉状態に依存して構造変化するか、また、③遅い脱活性化の制御機構におけるこの相互作用の役割は何かを明らかにするべく、膜電位固定下でのシステイン架橋形成実験を主とした分子生物学的・電気生理学的な実験・解析を行い、hERGチャネル独自の構造機能連関の解明を目指す。 本研究では、hERGチャネルのS4S5LD-CLD間相互作用を解析するため、両ドメインの任意の部位にシステイン(Cys)を導入した二重変異体を作製し、HEK293細胞に発現させた後、細胞内を酸化的環境にすることでジスルフィド結合(S-S結合)を形成させ、その様子を電流の変化としてパッチクランプ法により測定・解析する。本年度はまず、この解析の準備として、導入したCysが意図していないCysとの間でS-S結合を形成しないよう、hERGチャネルの細胞内領域に元から存在するCysを、別のアミノ酸(アラニン)に置換した変異体を用意した。次に、S4S5LDおよびCLDそれぞれの任意の部位にCysを導入した変異体を作製し、また、それらを組み合わせた二重変異体の作製を実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究では、hERGチャネルの遅い脱活性化に関する構造機能連関の解明を目指し、特徴的なNon-domain swapped構造に伴う独自のS4S5LD-CLD間相互作用に焦点を当て、「研究実績の概要」で上述した①~③の解析を計画している。 当年度では、「研究実績の概要」で上述したように、これらの解析を行うための準備として、本研究で使用する各種の変異体の作製を進めた。作製した各変異体は、培養細胞(HEK293細胞)に発現させた後、パッチクランプ法により電流の測定が可能かどうかを試した結果、今後の実験において支障なく使用できることが確認できた。また、最適な実験条件等の検討を行い、研究実施計画の次の段階へ移行するための準備を整えることができた。 申請時の研究実施計画ではこの後、当年度内に上述の①と②の解析に移行する予定であった。しかし、年度末に開催予定であった第97回日本生理学会大会の事務局員として、その運営や準備に関わる業務が多数あったこと、さらに新型コロナウイルス感染症による大会中止という想定外の対応が必要になったことにより、当年度の後半数ヶ月間はあまり実験が行えず、そのため①と②の解析を行うには至らなかった。 以上のような理由から、本研究における現在までの進捗状況は、申請時の研究実施計画からやや遅れていると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は今後とも、hERGチャネル独自のS4S5LD-CLD間相互作用に焦点を当て、このチャネルの遅い脱活性化に関する構造機能連関の解明を目指す。 当年度の研究では、分子生物学的な実験による各変異体の作製が進み、また、電気生理学的な実験のための設備・条件の検討等、今後の解析に必要な準備を整えることができた。今後は研究実施計画に基づき、膜電位固定下でのシステイン架橋形成実験に移行する予定である。そのため、作製した変異体をHEK293細胞に発現させ、パッチクランプ法を応用した解析を実施することにより、①相互作用に最も重要な部位(アミノ酸ペア)はどこか、②相互作用部位がチャネルの開閉状態に依存して構造変化するか、また、③遅い脱活性化の制御機構におけるこの相互作用の役割は何かを解明すべく、本研究の遂行に向け尽力したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた主な理由としては、「現在までの進捗状況」で上述したように、本研究における現在までの進捗状況が申請時の研究実施計画からやや遅れていることが挙げられる。当年度では、分子生物学的な実験による各変異体の作製までは実施できたが、その後の電気生理学的な解析(「研究実績の概要」で上述した①と②の解析)へは移行できなかったため、それらの解析において使用する予定であった試薬・物品等の購入に至らなかったことから、次年度使用額が生じる結果となった。 ここで生じた次年度使用額に関しては、新しく次年度分として請求する金額と合わせて、研究実施計画に基づいた今後の実験・解析のために使用する計画である。具体的には、当年度で実施できなかった上述の①と②の解析を行う上で必要になる試薬や物品等の購入、また、2020年度における研究実施計画に基づいた実験・解析(「研究実績の概要」で上述した③の解析)を実施するために必要になる試薬・物品等の購入に使用する予定である。
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