研究課題/領域番号 |
19K16495
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研究機関 | 大阪医科大学 |
研究代表者 |
山下 愛美 大阪医科大学, 医学部, 助教 (80750637)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 重症筋無力症 |
研究実績の概要 |
本研究では神経筋接合部における自己免疫疾患である重症筋無力症の新規治療法開発を目指している。今まで行われてきた免疫を抑制する方向からのアプローチではなく、免疫によって攻撃されない人工受容体を遺伝子導入し、神経筋接合部のシナプスを正常に機能させるという、新たな治療法を提案する。 具体的にはヒトのアセチルコリン受容体遺伝子を改変して、自然界には存在しない受容体を人工的に作成する事により、将来的には遺伝子治療による重症筋無力症の新しい治療法の開発を目指す。 2019年度は人工受容体の設計と機能確認を行った。重症筋無力症患者抗体が主に結合する部位であるMIRに変異を導入した。HEK293細胞に野生型および人工受容体を発現させ、野生型受容体には商業的に入手したモノクローナル抗体(mAb35)が結合するが、複数種作成した人工受容体にはmAb35が結合しないことを確認した。また、人工受容体は機能が維持されている必要がある。先行研究により、MIRに変異が多く入れば受容体としての機能が低下することが報告されている。そこで変異を最小限にとどめ、電気生理学的手法を用いて人工受容体の機能が維持されていることを確認したところ、すべての受容体において機能的に維持されていることが確認できた。すなわち、当初予定していたとおり、抗体によって認識されないが、機能は維持されている人工受容体の作出に成功した。重症筋無力症患者血清に含まれる抗体によっても人工受容体が攻撃されないことを確認したい。そこで、2020年度に予定していた患者血清を用いた研究を前倒しで開始している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
予定どおりに人工受容体の設計と特性について調べることができ、おおむね期待していたものを作出することに成功した。さらに2020年度に予定していた重症筋無力症患者血清を用いた実験を前倒しで始めることができている。しかし、実際に患者血清を用いた実験では予想と反して、人工受容体と患者血清に含まれる抗体との結合が確認された。今後この点に関してさらなる検証が必要となっている。
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今後の研究の推進方策 |
重症筋無力症患者血清に含まれる抗体によっても作製した人工受容体が攻撃されないことを確認したい。そこで、実際に脳神経内科から提供された2例の患者血清を用いて同様の実験を開始した。予想に反して患者血清に含まれる抗体と野生型および人工受容体の結合が確認された。これは商業的に入手可能なモノクローナル抗体と患者血清に含まれる抗体の組成の違いによるものと考えている。具体的には患者血清には複数の抗体が含まれており、重症筋無力症を特に引き起こしやすいMIRへの結合自体は阻害されているが、その他の受容体の部位に結合している可能性が考えられる。MIRへの抗体の結合のしやすさと病気の重症化には相関があることが報告されており、患者抗体が人工受容体に結合したからといって病態を示さない可能性も残されている。2020年度はこの点を検証していきたいと考えている。 また、iPS細胞からコリン作動性神経細胞の分化に成功している。今後、培養筋肉細胞に人工受容体を発現させ、iPS細胞から分化させたコリン作動性神経細胞との共培養を行いシナプスを形成させ、抗体を添加しても形態的・機能的にシナプスが維持されることを確認したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
設備備品については、当初予定通りにマイクロマニピュレータを購入したが、日常の研究遂行に必要となる消耗品費などについて、新規に購入することなく研究を遂行できた。そのため次年度に消耗品費等に用いる予定である。
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