本研究では神経筋接合部における自己免疫疾患である重症筋無力症の新規治療法開発を目指している。今まで行われてきた免疫を抑制する方向からのアプローチではなく、免疫によって攻撃されない人工受容体を遺伝子導入し、神経筋接合部のシナプスを正常に機能させるという、新たな治療法を提案する。 具体的にはヒトのアセチルコリン受容体遺伝子を改変して、自然界には存在しない受容体を人工的に作成する事により、将来的には遺伝子治療による重症筋無力症の新しい治療法の開発を目指す。 商業的に入手したモノクローナル抗体はすべての人工受容体に結合しないことを確認できたが、患者血清に含まれる抗体はすべての人工受容体に結合することが確認された。これは商業的に入手可能なモノクローナル抗体と患者血清に含まれる抗体の組成の違いによるものと考えている。具体的には患者血清には複数の抗体が含まれており、重症筋無力症を特に引き起こしやすいMIRへの結合自体は阻害されているが、その他の受容体の部位に結合している可能性が考えられる。そのため、患者抗体は病気の重症度に関与する部位には結合せず、その他の部位に結合する可能性が示唆された。作製した人工受容体にヒトiPS細胞から分化させた運動神経と筋肉細胞を用いて神経筋接合部を再構成し、患者血清投与により筋収縮が抑えられるという重症筋無力症の病態を再現することができた。人工受容体を筋肉に発現させ、患者血清を投与しても耐性があることの確認が今後さらに必要である。
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