肥満は、生活習慣病の発症に大きく影響することが知られており、早急な対策が社会的に求められている。脂肪細胞にはエネルギーを貯蓄し、肥満の原因となる白色脂肪細胞と、エネルギーを消費して熱産生する褐色脂肪細胞が存在する。寒い環境下では、体温が下がりすぎないように交感神経活動が亢進し、褐色脂肪細胞のミトコンドリア脱共役タンパク質であるUCP1の発現増加・活性化により、熱産生が起こる。最近、このUCP1の発現上昇には、細胞膜に局在する非選択的陽イオン透過性チャネルであるTRPV2を介したCa2+動員が関与することが報告された。しかし、細胞内Ca2+動員機構は複雑であり、褐色脂肪細胞の熱産生に関わる細胞内Ca2+動員機構については、さらに詳細な検討が必要である。 細胞膜に存在するNa+/Ca2+交換輸送体(NCX)には、Na+濃度勾配に従ってCa2+を細胞外へ排出するforward modeと、細胞内Na+濃度が増加する特殊な条件下で細胞外からCa2+を流入させるreverse modeの2種の輸送モードがある。哺乳類には3種の分子種(NCX1~3)が存在し、心筋・平滑筋細胞ではNCX1が高発現しており、細胞内Ca2+ホメオスタシスの維持や細胞内Ca2+シグナルの形成に関わることが知られている。しかし、褐色脂肪細胞におけるNCXの発現や機能はほぼ未解明である。 本年度では、作成した脂肪細胞特異的NCX1欠損マウスの低温暴露時の体温を測定した結果、通常環境では対照群マウスと同程度の体温を示したが、低温環境では対照群マウスよりも体温が低下しており、熱産生機能に異常が認められた。 以上の研究成果から、褐色脂肪細胞に発現するNCX1は、UCP1を介した低温環境時の古典的熱産生機能に関与することが示唆された。
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