研究課題
がん悪液質は成因が不明かつ適切な治療薬が未だにないというとらえどころのない症候群であるため、そのモデルの確立は治療薬開発においても必要とされている。本研究分野ではヒトと類似したがん悪液質症状を呈するモデルの作製に成功している。がん悪液質では、心機能障害が起こることが近年報告されており、同モデルにおいても心機能低下が予想されるが、同モデルを用いた心機能評価は行われていない。そこで今年度は当分野が開発したヒト胃がん細胞株85As2をヌードマウスに移植し、その際の心機能の変化について評価を行った。85As2誘発がん悪液質モデルを用い、がん悪液質と心機能との相関関係を、心臓機能ならびに形態学的解析により評価したところ、がん悪液質症状は85As2移植後2週より発現し移植後8週まで持続した。また、悪液質の進行とともに顕著な心機能の低下が起こることを見出した。さらに心電図解析では伝導遅延の発生も認められている。85As2誘発がん悪液質モデルでは、ヒトがん悪液質患者と類似した心機能低下の徴候を有しており、がん悪液質における心機能低下のメカニズムを解析する上で適切なモデルであると考えている。85As2誘発がん悪液質モデルの心筋を用いて、マイクロアレイ解析を行ったところ、悪液質の進行とともにE3ユビキチンリガーゼに属する酵素遺伝子の発現が上昇していることが判明した。この酵素は筋委縮との関連性が報告されていないため、がん悪液質時の心機能障害並びに心筋委縮にかんよする有力な遺伝子として解析を進めている。
3: やや遅れている
今年度は、使用している動物実験室の使用が制限されていたこと、さらに自身の研究室の引っ越しが重なったため、例年通り実験を進めることができなかった。次年度もセットアップをなるべく急ぎ遅れを取り戻したいと考えている。
がん悪液質時の心機能評価についてさらに詳細に検討するとともに、新規治療薬としてのACEI、ARBの可能性について検討を進めていく。
実験開始が予定より遅れたことから、年度末までに使用する予定であったものが年度をまたいでしまった。次年度予定の実験に早急に充当させ、翌年分の助成金と合わせて本研究計画を着実に遂行するために適正に使用する。
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