研究実績の概要 |
リンパ管発生の初期には、既存の静脈から一部の細胞がリンパ管内皮細胞へと分化し、出芽することでリンパ管が形成される。しかし、安定型の静脈内皮細胞が、出芽型のリンパ管内皮細胞へと誘導される機構は正確に分かっていない。我々は、ゼブラフィッシュ変異体の解析から、Tie受容体型チロシンキナーゼTie1, Tie2のうちTie1がリンパ管発生に重要であることを見出し、初年度には、Tie1が静脈内皮細胞のリンパ管分化、および遊走に重要であることを明らかにした。令和二年度は、時空間的に詳細な解析を行うために、ライブイメージングを駆使して観察をおこない、Tie1ノックアウト(KO)の静脈内皮細胞が、遊走方向へ突起を伸ばすにも関わらず、核を含めた細胞全体の遊走が減少することを発見した。また、出芽細胞の遊走距離、速度、および増殖も、優位に減少することを明らかにした。哺乳類のTie1は、Tie2と異なり、そのリガンドであるAngiopoietin(Ang)と結合せず、リン酸化されないことが知られていたため、ゼブラフィッシュAng, Tieの組換えタンパク質を作製し結合とリン酸化の有無を調べた。その結果、ゼブラフィッシュTie1がAng1と結合し、Angによってリン酸化されることを見出した。In vivoにおいてもang1 KOフィッシュがリンパ管発生に異常を示したことから、ゼブラフィッシュでは、Ang1/Tie1がリンパ管発生を制御することが示唆された。さらに、Tie1の下流で制御される因子を探索するために、tie1 KO fishを用いてRNA-seqを実施した結果、複数の静脈、リンパ管関連因子、および遊走、増殖関連因子が減少していたことから、本研究の成果によって、リンパ管発生を制御する新たな分子メカニズムを明らかにすることができると考えられる。
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