研究課題
本研究では、遺伝子を自由に改変可能なゲノム編集技術により様々な遺伝子を欠失させた癌細胞集団を作製し、その癌細胞集団を用いて、腫瘍溶解性ウイルスであるコクサッキーウイルスB群3型(CVB3)の細胞傷害性及び抗腫瘍免疫誘導に必要な遺伝子を同定する。CVB3の癌細胞殺傷メカニズムを詳細に理解し、ウイルス感染に必要な受容体の発現のみならず、CVB3の殺細胞効果や抗腫瘍免疫誘導に必要な遺伝子を把握することで、治療を受ける患者の適応基準を科学的に設定することが可能になる。2019年度は、まずゲノム編集ハイスループットノックアウトライブラリープラスミドよりレンチウイルスライブラリーを作製した。次に、本ライブラリーウイルスを用いてノックアウトさせる癌細胞の樹立を試みた。本ライブラリーが正しく機能しノックアウトするためには、Cas9を恒常発現している細胞を樹立する必要がある。本年度は、CVB3に感受性の高いNCI-H1299細胞(肺癌)にCas9を導入し、H1299-Cas9細胞を樹立した。次に、本細胞を用いて、コントロールレンチウイルスによるCas9発現効率等を検討した。さらに、ノックアウトした細胞集団にCVB3を均等に感染させることが可能なウイルス量の検討を実施した。今後は、レンチウイルスライブラリーをH1299-Cas9細胞に感染させ、ノックアウト細胞集団を作製し、上記で設定した感染力価でCVB3を感染させ、生存した細胞を回収する予定である。その後、回収した細胞からゲノムを抽出し、次世代シークエンスによりレンチウイルスに組み込まれたバーコード配列を識別し、ノックアウトされた遺伝子を同定する。
2: おおむね順調に進展している
2019年度は、ノックアウトさせる癌細胞の樹立に時間を有したため、少々計画に遅延が生じた。加えて、本ライブラリーが正しく機能するかを確認することは非常に重要と判断し、コントロールウイルスを用いて作製した細胞株の適格性を検討することにした。検討に使用するコントロールウイルスの入手に時間を有し、検討を行う期間の遅延が生じた。しかしながら、今後はこれらの条件検討の結果を用いて、スムーズに研究が進捗すると思われるため、全体としてはおおむね順調に進展していると判断した。
まず、2019年度に得られた条件検討を生かして、速やかに「ゲノム編集ハイスループットノックアウトライブラリーによるCVB3の細胞傷害性に関与する遺伝子の同定」を完了する。次に、同定遺伝子の個別ノックアウト細胞を用いてライブラリーで観察されたウイルスの細胞傷害性への関与を再度確認し、CVB3の細胞傷害性メカニズムの解明を行う。その後、2020年度に実施予定の「ゲノム編集ハイスループットノックアウトライブラリーによるCVB3の抗腫瘍免疫誘導に関与する遺伝子の同定」を進め、同定遺伝子の個別ノックアウト細胞を用いてライブラリーで観察されたウイルスの抗腫瘍免疫誘導への関与を再度確認する。
(理由)2019年度は、ノックアウトさせる癌細胞の樹立に時間を有したため、少々計画に遅延が生じた。さらに、本ライブラリーが正しく機能するかを確認することは非常に重要と判断し、コントロールウイルスを用いて作製した細胞株の適格性を検討することにしたため、コントロールウイルスの入手時間及び検討期間分の遅延が生じた。これらの理由により、当該年度に行うはずだった次世代シークエンスを次年度に繰り越すため、次年度使用額が生じた。(使用計画)2020年度は上記の次世代シークエンスを実施するため、その経費に充てる予定である。
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