日本をはじめとする先進諸国は飽食の時代を迎え、容易に肥満や生活習慣病を患う脅威にさらされている。肥満は種々の疾患の危険因子であり早期に治療介入することが望ましいが、一方で汎用可能な治療薬は無いのが現状である。本研究では、Protein Kinase A (PKA)に直接作用する新しい創薬基盤を構築し、肥満症の治療法開発を目指す。 我々は、腎臓集合管において尿濃縮力を調節するバゾプレシン/cAMP/PKA/AQP2水チャネルシグナル伝達系の研究を行っており、最近、cAMPを介さずにPKA/AQP2を直接的に活性化可能な低分子化合物FMP-API-1/27を発見した(Nat Commun. 2018)。FMP-API-1/27には、PKAのアンカータンパクであるAKAPsからPKAを切り離す作用がありPKA活性を直接的に制御できるため従来のGPCRアゴニストやホスホジエステラーゼ(PDE)阻害薬などのPKA活性化剤を、効力と特異性で凌駕する治療薬を創出できる可能性がある。 脂肪細胞においては、PKAシグナル伝達系は抗肥満の標的として知られている。PKAはユビキタスに発現しているが、我々は組織特異的にPKA活性を制御可能な化合物を開発できると考えている。褐色脂肪培養細胞を用いて、リード化合物FMP-API-1/27を誘導体展開した化合物や類似構造を持つ化合物ライブラリーのスクリーニングを行い、化合物Xを同定した。化合物Xは、高脂肪食肥満モデルマウスにおいて、抗肥満効果を発揮し耐糖能異常も改善させた。 脂肪細胞に特化したPKA活性化剤の開発は、その作用機序を解析することで肥満症におけるPKAの病態解明にも有用である。化合物Xを16週間投与したマウスの脂肪細胞において、リン酸化が変化しているPKA基質を同定しAKAPとの関連を解析している。
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