研究課題
本研究では、リンパ管の損傷が記憶の素子として知られるLTPとLTD、およびそれを制御する脳波に与える影響を検証することを目的とした。また、神経細胞だけでなく、脳免疫機能の担い手として着目されるグリア細胞の変化やサイトカイン、そしてその流路となりうる血管周囲腔の挙動も記憶成績を変化させうる因子として考慮し、リンパ管の損傷が記憶学習成績を低下させるメカニズムを様々なスケールから検証した。成体マウスのリンパ管新生を薬物投与によって1ヶ月抑制した後、オペラント条件付けと空間ワーキングメモリを評価する行動試験を行った。行動試験は、オペラント条件付けの評価が終了した後にワーキングメモリの評価に移行した。リンパ管の新生を阻害した群とPBSを投与した群で比較したところ、オペラント条件付けに関しては差が認められなかったのに対し、ワーキングメモリの試験ではリンパ管新生を抑制した群で成績が低下する傾向が認められた。このとき、左右ガンマ波の同期率が低下する傾向にあることも確認している。現時点では例数が限られるため、今後、十分に実験を重ねる必要があるが、リンパ管の新生は一部の行動学習成績のみに影響を及ぼす可能性があると考えている。また、硬膜リンパ管から脳内へと侵入する免疫細胞やサイトカインの流路として脳内の血管の周辺に存在する空間、「血管周囲腔」が着目されている。本研究では、二光子顕微鏡とCAG-GFPマウスを組み合わせることで、血管周囲腔を成体マウスから可視化し、その形態変化を捉える技術を開発してきた。すでに脳浮腫誘導時に血管周囲腔の形態に変化が生じることも確認しており、今後は行動試験と組み合わせることで、リンパ管新生の抑制が記憶学習成績を低下させるメカニズムをより詳細に検証する予定である。
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