研究課題
肺動脈性肺高血圧症(PAH)は、肺血管過収縮や肺血管リモデリングにより肺小動脈が狭窄し、平均肺動脈圧が25 mmHg以上となる難治性の疾患であり、肺動脈圧の高い状態が続くことにより右心不全に至る。肺血管過収縮や肺血管リモデリングの原因として、肺動脈平滑筋細胞のCa2+制御異常が推察されているが、その分子機序の詳細は不明である。現在、PAH治療薬として、プロスタサイクリン製剤、エンドセリン受容体拮抗薬、PDE5阻害薬などの血管拡張薬が臨床応用されているが、重症例では肺移植が必要となることも多く、予後の十分な改善には至っていない。喫緊の課題として、PAHの発症機序の全容解明と有効な新規治療薬の開発が望まれている。近年、ミトコンドリア内膜に存在するCa2+輸送体として、Ca2+流入系であるMCUとCa2+流出系のNCLXが同定された。しかしながら、これらミトコンドリアCa2+輸送体の生理学的役割および病態学的意義については未だ不明な点が多い。これまでに申請者は、ミトコンドリアCa2+輸送体の血管平滑筋特異的高発現マウスを作製し、あるミトコンドリアCa2+輸送体高発現マウスでは低酸素誘発性肺高血圧が軽症化し、他のミトコンドリアCa2+輸送体高発現マウスでは同肺高血圧が重症化することを見出した。また、ミトコンドリアCa2+輸送体遺伝子欠損マウスを作製し、同様の検討を行った結果、高発現マウスと逆の結果を得た。さらに、これら遺伝子改変マウスより、肺動脈平滑筋細胞を単離・培養し、低酸素培養、Ca2+ imagingによる細胞内Ca2+動態の検出実験系を確立した。今後は、これらミトコンドリアCa2+輸送体遺伝子改変マウスおよび単離平滑筋細胞を用いて、低酸素誘発性肺高血圧発症機序を検討していく予定である。
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