研究実績の概要 |
慢性炎症は様々な疾患の基盤病態であり, 組織リモデリングを促すことで, 臓器機能不全に至らしめる. プロスタグランジンE2 (PGE2) は炎症組織で合成されるメディエーターで あり, 慢性炎症の増悪因子としての作用が盛んに研究されている. PGE2合成を仲介する シクロオキシゲナーゼ (COX) の阻害剤は, 下流のメディエーターの合成を一様に抑え, 長期的には重篤な副作用をもたらすため, PGE2の作用をより選択的に阻害する戦略が必要である. プロスタグランジンE3 (PGE3) は, 体内で生合成されるPGE2の類縁体であり, PGE2受容体に結合するとされる. 本研究ではPGE3が慢性炎症を抑制するか動脈硬化のモデルで検討し, またPGE3の作用機序を明らかにすることで, PGE3が動脈硬化の新たな治療戦略となりうるか, 明らかにしていく.
本年度は, 血管平滑筋細胞を対象にした in vitroの実験から, PGE3単独の作用および, PGE3のPGE2に対する競合作用を検討した. その結果, PGE3はPG2と同様に濃度依存的に主要なセカンドメッセンジャーであるcAMP濃度を増加させた. このことは, PGE3が, PGE2受容体であるEP2もしくはEP4へ作用する可能性を示唆している. また, PGE3をPGE2と同時に刺激することによって, PGE2による炎症性サイトカインIL-6の発現亢進作用が減弱した. このことからPGE3はPGE2に競合的に炎症を抑制する可能性が示唆される.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
プロスタグランジンE3が濃度依存的に細胞内cAMP濃度を増加させることを明らかにし, PGE2受容体の内, 血管平滑筋細胞において作用している可能性の高い受容体を同定できた. また,プロスタグランジンE3が, プロスタグランジンE2による炎症性サイトカインの発現亢進を競合的に抑制することを示す結果が得られており, 今後の動脈硬化性疾患に対するPGE3の効果を評価へつながる結果となっている.
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今後の研究の推進方策 |
今後は, LDL受容体欠損マウスに高脂肪食負荷を行うアテローム性動脈硬化疾患モデルを用いて, プロスタグランジンE3に動脈硬化の抑制効果があるか, 検討を行っていく. また, プロスタグランジンE3による炎症抑制の機序を, 主要な炎症促進因子であるNF-κBおよびNLRP3インフラマソーム経路へのプロスタグランジンE3の作用を検討し, かつPGE2への競合作用を検討することで明らかにしていく.
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