研究課題/領域番号 |
19K16520
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
阿久津 シルビア夏子 (AkutsuSilviaNatsuko) 広島大学, 原爆放射線医科学研究所, 助教 (10822299)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | トリソミー・レスキュー / 染色体 / iPS細胞 |
研究実績の概要 |
ヒトゲノムは46本の染色体で構成されている。しかし、配偶子形成の過程で生じる染色体不分離が原因で、一連のトリソミー疾患が引き起こされる。近年、ダウン症候群患者の体細胞をiPS細胞に初期化した場合に、正常核型に変換される現象(トリソミーレスキュー)が生じることが報告された。研究実績でも、ダウン症候群患者で本現象が再現されることを確認していたが、その頻度は0~5%程度と高くない。現在、トリソミーの正常核型への変換メカニズムだけでなく、トリソミー・レスキューが他の染色体でも生じる普遍的な現象であるかについても不明な点が多い。 本研究では、トリソミーレスキューがトリソミー患者の細胞を再プログラミングし、細胞遺伝学的手法によって評価することにより、普遍的な現象であることを示しました。高効率な染色体異数性レスキュー実験系を確立することを研究目的としている。本研究成果は、トリソミー症候群の根治療法に向けた画期的な基盤技術となると期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ダウン症(21トリソミー)はトリソミーレスキューの効果が低いため、他のトリソミー症候群(パトー症候群)に挑戦して、トリソミーバイアス染色体喪失の現象が見られるかどうかを確認しました。 本研究では、パトー症候群患者細胞のiPS細胞を作製し、細胞遺伝学的手法を用いて13番染色体の核型の評価を評価した。 パトー症候群患者の皮膚線維芽細胞(A細胞 and B細胞)に、山中因子を搭載したエピソーマルベクターを電気穿孔法で導入して、初期化した。エピソーマルベクターのiPS細胞ゲノムへの挿入について、ベクター上のOri配列、EBNA配列を増幅するプライマーを用いたPCR増幅により評価した。次に、iPS細胞の幹細胞マーカー遺伝子の発現を免疫染色法で確認した。さらに、Chr 13セントロメアプローブを用いたFISH法によって、正常核型に回復したiPS細胞クローンを探索した。また、他の染色体への影響を評価するために、G-band法により各クローンの染色体数を計測した。トリソミー・レスキューで生じたダイソミーの染色体の組合せを評価するため、CGH/SNPアレイを用いた分子生物学的解析を行った。
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今後の研究の推進方策 |
ダウン症候群よりもパトー症候群でレスキューが高効率で起きたことから、トリソミー・レスキューの効率は染色体の大きさが影響することが示唆された。このことを実証するためには、13番染色体と21番染色体の中間の大きさの18番染色体のトリソミー疾患であるエドワーズ症候群の細胞初期化によるトリソミー・レスキューを解析することが有効である。 また、トリソミーの染色体のみ数が変化して、他の染色体には影響が無かったことから、ヒト細胞には2n=46を正確にカウントする機構が存在すると考えられる。しかし、その分子メカニズムは不明である。本研究で、高効率にトリソミー・レスキューが起きることが実証されたパトー症候群細胞は、トリソミー・レスキューの分子機構の解明にとって極めて有用なモデル疾患である。 以上のことから、今後はディソミー細胞の由来やSNPアッセイによる組成の分析を行い、片親または両親の組み合わせを特定するための実験を進めて行く予定がある。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度には、現象が普遍的であるかどうか、および染色体のサイズがトリソミーレスキュー効果に干渉するかどうかを確認するために、18トリソミーと9トリソミーの再プログラミングを実行することです。 新型コロナウイルス感染症の影響で一部実施できなかった実験や出張があった。また、本年度中に本研究成果を発表するためには、最終的な実験と結果の確認が必要である。
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