研究課題/領域番号 |
19K16522
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
清水 謙次 東京大学, 定量生命科学研究所, 特任助教 (60837061)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | T細胞 / 免疫抑制受容体 / PD-1 / CAGE / ATAC-seq / リン酸化プロテオーム |
研究実績の概要 |
近年、抗PD-1抗体によるがんの治療が注目を集めている。しかしながら、PD-1がTCRシグナルで誘導される遺伝子発現変動にどのような影響を及ぼすかは分かっていなかった。我々はこれまでの研究でトランスクリプトーム解析を行い、PD-1によって発現が抑制される遺伝子とされない遺伝子があることを明らかにした。本研究では、PD-1による発現抑制の程度がどのように決まっているのか明らかにすることを目的とする。方法としては、ATAC-seqを実施しPD-1によって発現が抑制される遺伝子とされない遺伝子の発現調節の違いを明らかにする。 トランスクリプトームとATAC-seqの結果から、もっともPD-1によって抑制されやすい遺伝子はプロモーターのCpG頻度が低く、クロマチンがクローズになっている遺伝子だということがわかった。次に抑制されやすい遺伝子はプロモーターのCpG頻度が低く、クロマチンがオープンになっている遺伝子だった。プロモーターのCpG頻度が高い遺伝子のほとんどはクロマチンがオープンになっており、PD-1による抑制を受けにくかった。 トランスクリプトームの結果から、遺伝子発現上昇に強いT細胞刺激後が必要な遺伝子ほどPD-1による抑制を受けやすいことが分かっていた。今回、遺伝子発現と同様に、ATAC-seqのシグナルが上昇するために強いT細胞刺激後が必要な領域ほどPD-1による抑制を受けやすいことがわかった。 来年度は、リン酸化プロテオーム解析を実施しTCR下流のシグナル分子のリン酸化状態を調べることによって、TCRシグナルパスウェイのどの部分がPD-1によって抑制されているか明らかにする。トランスクリプトーム、ATAC-seq、リン酸化プロテオームのデータを統合的に解析し、PD-1によるTCRシグナル制御を体系的に理解する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
2019年度は、プロモーターのCpG頻度および特定の転写因子結合モチーフの有無を操作することにより、遺伝子のPD-1感受性を変化させ得ることをモデル系で実証するなどして、これまでの結果をMol Cell誌に報告した。また、年次計画通りにATAC-seqとリン酸化検出の条件検討を実施しただけではなく、2020年度に予定していたリン酸化プロテオーム解析の予備試験も行うことができた。ATAC-seqのデータ解析も予定していた内容についてはほぼ完了している。以上の理由から当初の計画以上に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今後はリン酸化プロテオーム解析を行い、トランスクリプトームおよびATAC-seqのデータと統合的に解析し、PD-1によるTCRシグナル制御を体系的に理解する。 初年度に実施したリン酸化プロテオーム解析の予備実験では、PD-1による抑制効果は非常に弱かった。この原因として、PD-1/PD-L1の発現量が低いこと、T細胞を前もって刺激してPD-1の発現を誘導しているために、シグナル分子がもともとある程度リン酸化していることなどが考えられる。これらの解決策として、PD-1の発現を上昇させるための前刺激の条件を検討する。あるいは、もともとPD-1を強く発現しているT細胞株で代用する。ただ、同じ細胞を用いた解析により、タンパク質産生および遺伝子発現のレベルではPD-1による強い抑制効果が観察されていることから、PD-1によるシグナル分子の脱リン酸化の効果はもともと非常に弱いものだという可能性もある。その場合には、シグナル分子の脱リン酸化に与える弱い影響が、タンパク質産生および遺伝子発現のレベルでは大きな差を生み出す理由に着目して解析を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
年度途中に所属機関の異動があったことから、当初当該年度に実施する予定であった実験の一部を次年度に行うことになった。これにより生じた次年度使用額は当初の計画通り、シークエンスや質量分析関連の試薬の購入のために使用する予定である。
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