研究課題
二本鎖RNA結合タンパク質であるNuclear Factor 90(NF90)とその結合パートナーであるNF45の複合体(NF90-NF45)は、機能性小分子RNAであるマイクロRNA(miRNA)の生合成経路を負に制御する。加えて、NF90-NF45は肝細胞がんで高く発現しており、がん抑制作用を有するmiRNAの産生を阻害することで、細胞増殖促進的に機能することを見出してきた。一方、モデルマウスを用いた解析の結果、NF90-NF45は前がん状態の一つである非アルコール性脂肪肝炎(NASH)においても発現が増加していることがわかり、NF90-NF45の発現増加がNASHの発症を誘発し、その後発がんへと誘導する可能性が示唆された。本研究では、NF90-NF45によるmiRNAの生合成抑制を介したNASH発症・増悪化への関与を明らかにするため、肝臓特異的NF90-NF45欠損マウスの作製とNASHモデルマウスにおける抗線維化・抗炎症miRNAの発現変動の解析を試みている。今回、NASH病態においてNF90-NF45が産生制御するmiRNAの候補を絞り込むため、NASHモデルマウスの一つであるコリンメチオニン欠損食(MCD食)給餌マウスの肝臓で発現変動するmiRNAと、培養細胞系においてNF90をノックダウンした際に発現変動する miRNAをmiRNA arrayにより網羅的に解析した。両アレイのデータを比較検討した結果、MCD食給餌マウスの肝臓においてNF90-NF45が産生制御するmiRNAの候補として、miR-483-5pを同定した。miR-483-5pは肝臓内でコラーゲン分解を抑制する因子Timp2を直接の標的とすることで肝線維化に対し抑制的な機能が報告されている。現在、「NF90-NF45発現増加→miR-483-5p発現低下→Timp2発現増加→肝線維化・炎症促進」の経路の検証を行うため、肝臓特異的NF90-NF45欠損マウスの作製を進めている。
3: やや遅れている
当初の計画では、NF90-NF45が標的とする抗線維化・抗炎症miRNAの探索と同時に、2019年度中に肝臓特異的NF90-NF45欠損マウスの作製に必要なNF90-floxマウスを作製する予定であった。CRISPR/Cas9法を用いてNF90遺伝子の第4エクソンの前後にloxP配列の挿入する操作を実施したが、片側のみにloxP配列が挿入された個体しか得ることができなかった。現在、得られた片側のみにloxP配列が挿入された個体をもとに、もう一箇所にもloxP配列を挿入するため追加でゲノム編集操作を実施中である。
肝臓特異的NF90-NF45欠損マウス作製のため、NF90-floxマウスの作製を行う。NF90-floxマウスが得られ次第、既に作製済みであるNF45-floxマウスと掛け合わせ、NF90-NF45 floxマウスを得る。その後、NF90-NF45-floxマウスと肝臓特異的Creリコンビナーゼ発現マウスを交配し、肝臓特異的NF90-NF45欠損マウスを作製する予定である。さらに、肝臓特異的NF90-NF45欠損マウスおよびコントロールマウスに対してMCD食を給餌することでNASHを発症させ、肝臓における炎症・線維化進展に対するNF90-NF45の影響を組織学的解析・生化学的解析により評価する。加えて、通常食と比較し、MCD食を給餌した肝臓特異的NF90-NF45欠損マウスの肝臓において、2019年度の解析で得られた候補因子であるmiR-483-5pおよびTimp2の発現が変動するか、否かをqRT-PCRおよびWestern Blottingにより検証する。また、miR-483-5pの初期転写産物(pri-miR-483-5p)に対してNF90-NF45が直接結合し、pri-miR-483-5pのプロセッシングを抑制しているかを検証するため、RNAゲルシフトアッセイおよび pri-miRNA processing assay を実施する。これらの解析を通して、NASHにおけるNF90-NF45によるmiRNA産生阻害を介した肝線維化・炎症制御機構の全容を解明する。
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Biochemical and Biophysical Research Communications
巻: 512 ページ: 189~195
10.1016/j.bbrc.2019.03.036
http://www.kochi-ms.ac.jp/~ct_mrc/academic/index.html