細胞骨格を形成する微小管は、細胞内物質輸送のレールとして機能しているが、特にニューロンにおいてはよく発達しその極性を作り出している。我々は以前にSer/Thr脱リン酸化酵素Protein Phosphatase 4 catalytic subunit (PP4c) が微小管ダイナミクスを制御することを明らかにしてきた。PP4cの中枢神経における機能を調べるため、ニューロン特異的PP4c欠損マウスを作製したところ、欠損側の海馬組織が進行性に萎縮することがわかった。そこで本研究課題では、PP4cが関わる神経変性メカニズムを明らかにすることを目的とした。はじめにPP4cリコンビナント蛋白質とマウス海馬タンパク抽出液を用いてプルダウンアッセイを行い相互作用する蛋白質を質量分析したところ、微小管を構成する数種類のTubulinが同定され、中枢神経においてもPP4cが微小管結合タンパク質であることを明らかにした。さらにPP4c欠損海馬ニューロンの培養では、神経細胞の形態変化とシナプスマーカーの発現減少が認められた。海馬ニューロンではαシヌクレインが高く発現していることが知られており、シナプス小胞や微小管に相互作用があることがわかっている。αシヌクレインの凝集は海馬組織に変性をもたらすレビー小体型認知症発症の原因であると考えられている。我々は独自に新しいαシヌクレインの翻訳後修飾として、136番目チロシンが海馬組織を含む生体内でヒドロキシ化されることを発見し、この翻訳後修飾がシヌクレイノパシー患者の脳で有意に増加することを明らかにした。また、培養細胞ではαシヌクレインのヒドロキシ化とリン酸化が同時に亢進することが明らかになった。これらのことから、PP4c欠損によるαシヌクレインのリン酸化亢進とそれに付随するヒドロキシ化によって海馬ニューロンの変性が誘発される可能性が示唆された。
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