個体の生命や臓器の機能を維持する上で重要なオルガネラであるミトコンドリアは、自身の形を分裂・融合させることでその機能を維持している。ミトコンドリアの過剰な分裂状態はATPの産生低下や活性酸素種の増加を引き起こして細胞や組織にダメージを与えるが、このミトコンドリアの過剰分裂を抑える仕組みは不明であった。私たちは以前ミトコンドリアに局在するユビキチンリガーゼMITOLを同定し、MITOLがミトコンドリア分裂因子Drp1をユビキチン化しプロテアソーム依存的な分解を促進することによりミトコンドリアの形態を調節することを明らかにした。心筋梗塞などの疾患でミトコンドリアの過剰分裂が観察されることから、心臓におけるMITOLの機能を評価するため心筋特異的にMITOLを欠損したマウスを作成した。その結果、細胞の結果と同様に心筋特異的MITOL欠損マウスの心臓では老化の表現型を示すことが分かった。また、心筋梗塞による病的老化の際にMITOLの発現が顕著に低下することがわかった。さらに、加齢による自然老化においてもMITOLの発現低下が起こることが分かった。これらの結果はMITOLの発現低下によるミトコンドリアの形態異常が、病的・生理的老化の原因になる可能性を示唆している。実際に細胞の実験において、MITOLの発現低下による細胞老化が、ミトコンドリア分裂因子Drp1の阻害剤によって回復することから、MITOLの発現低下による過剰なDrp1の蓄積がミトコンドリア形態異常を引き起こして老化を促進していることが予想された。これらの研究成果によりMITOLによるミトコンドリアの調節機構が明らかになり、病的老化・生理的老化の分子病態の一端が解明された。
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