血栓塞栓症は担癌患者でよくみられる合併症であるが、膵癌は癌の中でも血栓塞栓症の頻度の高い癌である。申請者は自身の以前の検討で、「膵癌の血栓塞栓症発症の臨床的な最大のリスク因子は肝転移である」ことを示している。しかしながら、その発症機序は依然として不明である。本研究では、膵癌による血栓塞栓症発症の病態生理の解明のために、自身の臨床的な知見を背景にして、膵癌細胞が分泌するexosomeなどの液性因子が血管内皮細胞の凝固線溶因子の発現に何らかの影響を及ぼしているのではないかとの仮説をたててそれを検証する。膵癌細胞株の上清からのexosome、あるいは膵癌自然発症遺伝子改変マウスの血清中のexosomeを用いて、血管内皮細胞での凝固線溶因子の発現・活性化の変化を検討し、その責任分子を分子生物学的に同定することで発症機序の解明をめざす。得られた結果について血栓塞栓症発症予測のためのバイオマーカーとしての有用性も検証し、支持療法の強化による膵癌の予後改善に寄与することを目的とする研究を進めている。 今年度は、exosome の血清からの再現性を持った単離方法を確立し、exosomeの表面マーカーであるCD63に対するELISAにて安定的にexosomeの単離ができることを確認した。さらに、実際の膵癌患者のexosomeを単離して、その中の遺伝子をdriplet digital PCRで解析するフローを確立し、今後の臨床検体の安定的な定量の体制を確立した。例えばkRas変異の有無をexosoemの単離からRNAを抽出し逆転写ののちdigital PCRで測定することで、kRas変異を持つかどうかを正確に測定できる体制を確立した。
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