研究実績の概要 |
臨床的に血栓塞栓症を発症した膵癌症例475例の特徴を検討したところ、多変量解析の結果、肝転移の有無のみが極めて有意にその発症に相関することが見出された(p = 0.01, hazard ratio 2.15)。しかしながら、膵癌における血栓塞栓症の発症機序については、まだ不明確な点が多い。通常血液が触れる部位にはほとんど発現していない組織因子(Tissue Factor,: TF)が血管内皮細胞や血球系で発現増強すると、外因系を血管内で活性化し血栓症を引き起こすと考えられている。実際、膵癌での検討でも、組織因子高発現の癌を持つ患者さんでは血栓塞栓症のリスクが高いことも示されている(Khorana AA et al. Thromb Res. 2018)。しかし、癌部でのみ凝固系が活性化しているわけではないので、組織因子の膵癌組織での高発現だけが膵癌患者の血栓塞栓症のリスクを引き上げているとは考えにくく、他の因子の関与も強く疑われるが、その実態はまだ明らかにされていない。本研究では、膵癌患者の予後延長のため、膵癌患者の予後に深く関わる血栓塞栓症の発症機序に迫るべく、基礎的な検討を行っている。特に、自身のこれまでの検討で、「肝転移が最大の血栓塞栓症発症のリスク要因」という結果を得ているため、「肝転移によって大循環に入りやすくなった膵癌細胞が分泌する何らかの液性因子が、全身性の血栓塞栓症発症のリスクを高めているのではないか」という仮説を立てて検証している。本年度は膵癌患者の血清からexosomeを単離し、血栓傾向の強い患者由来のexosomeに血管内皮に取り込まれやすい特徴があることを見出した。この内容物の解析とそれに伴う内皮細胞への影響を解析中である。
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