糖尿病精密医療に向けた遺伝子パネルと遺伝的リスクスコアによる診断アルゴリズム構築

2020 年度 実施状況報告書

• 研究課題/領域番号: 19K16534
• 研究機関: 東京大学
• 研究代表者: 細江 隼 東京大学, 医学部附属病院, 特任助教 (10781213)
• 研究期間 (年度): 2019-04-01 – 2022-03-31
• キーワード: 糖尿病 / 精密医療 / ゲノム解析 / 疾患関連遺伝子 / 遺伝統計学 / 若年発症糖尿病

研究実績の概要

糖尿病の症例は1型・2型糖尿病に病型分類されることが多いが、単一遺伝子異常によって糖尿病を発症するケースもある。単一遺伝子異常によって発症する糖尿病は、インスリン分泌不全やインスリン抵抗性を示す各種サブタイプが存在し、未診断の症例も多い。単一遺伝子異常に伴う糖尿病について早期診断を行い最適の治療を行うことによって、重症化や合併症を予防することが重要である。本研究では、臨床的に単一遺伝子異常に伴う糖尿病が疑われる症例を解析対象とした。各症例について、年齢、性別、身長・体重、血糖プロファイル、発症年齢および診断年齢、臨床経過などの情報を収集した。さらに、可能な場合には家系情報も収集して、家系図の作成を行った。単一遺伝子異常に伴う糖尿病の原因遺伝子に加えて、1型・2型糖尿病の関連遺伝子領域も解析対象として、次世代シークエンサーによるターゲットリシークエンスを行なった。なお、関連遺伝子領域の情報については、National Center for Biotechnology Information (NCBI) ClinVar database, Human Gene Mutation Database (HGMD)、GWAS Catalogなどのデータベースを参照した。シークエンスデータの解析を行い、若年発症成人型糖尿病（MODY）やインスリン受容体異常症などの単一遺伝子異常に伴う糖尿病の原因と考えられる遺伝因子を複数同定した。これらの遺伝因子について、in silicoの蛋白質構造解析などの機能構造的解析を行い病的意義の検討を行った。

現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

臨床的に若年発症成人型糖尿病（MODY）など単一遺伝子異常によって発症する糖尿病が疑われた参加者について、臨床経過や血糖プロファイルなどの情報収集を進めた。参加者の血液から得られたDNA検体について次世代シークエンサーを用いたシークエンスを施行し、シークエンスデータの解析を行い疾患原因変異と考えられる遺伝因子を複数同定した。これらの遺伝因子について機能構造的解析を進め、インスリン受容体異常症などの単一遺伝子異常に伴う糖尿病の症例で同定された遺伝因子に関して、in silicoの蛋白質構造解析では病的意義を示唆する立体障害を示した。以上より、おおむね順調に進展している。

今後の研究の推進方策

シークエンスデータから同定された遺伝因子の病的意義を詳細に解明するため、in silicoの蛋白質構造解析や培養細胞などを用いた機能解析を行う。さらに、これらの遺伝因子に関してバイオインフォマティクスの手法を用いて算出されるリスクスコア等も活用して、疾患原因変異の探索や病型鑑別を行い、有用な診断アルゴリズムの原型の構築を進める。

次年度使用額が生じた理由

機能構造解析に関する物品の納期の予定を考慮し、2020年度の研究費に未使用額が生じた。次年度に併せて、今年度に行う予定の研究計画を実施する。

研究成果

• [雑誌論文] Clinical usefulness of multigene screening with phenotype-driven bioinformatics analysis for the diagnosis of patients with monogenic diabetes or severe insulin resistance (2020)
  • 著者名/発表者名: Hosoe J, Miya F, Kadowaki H, Fujiwara T, Suzuki K, Kato T, Waki H, Sasako T, Aizu K, Yamamura N, Sasaki F, Kurano M, Hara K, Tanaka M, Ishiura H, Tsuji S, Honda K, Yoshimura J, Morishita S, Matsuzawa F, Aikawa SI, Boroevich KA, Nangaku M, Okada Y, Tsunoda T, Shojima N, Yamauchi T, Kadowaki T
  • 雑誌名: Diabetes Res Clin Pract 巻: 169 ページ: 108461-108461
  • DOI: 10.1016/j.diabres.2020.108461.
  • 査読あり
• [雑誌論文] インスリン受容体異常症について (2020)
  • 著者名/発表者名: 山内敏正、細江隼、庄嶋伸浩、門脇孝
  • 雑誌名: 月刊糖尿病 巻: 12 ページ: 55-61
• [学会発表] 臨床・遺伝情報に基づく診断支援システムを活用した若年発症糖尿病の新規病因解明 (2020)
  • 著者名/発表者名: 細江隼、庄嶋伸浩、山内敏正、門脇孝
  • 学会等名: 第93回 日本内分泌学会学術総会
• [学会発表] 若年発症糖尿病に対する臨床・遺伝データを用いた診断支援システムの臨床的有用性 (2020)
  • 著者名/発表者名: 細江隼、門脇弘子、宮冬樹、鈴木顕、加藤貴史、脇裕典、笹子敬洋、山田朋英、藤田逸人、角田達彦、庄嶋伸浩、山内敏正、門脇孝
  • 学会等名: 第63回日本糖尿病学会年次学術集会