研究課題
非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)は、脂肪肝から進行して、マクロファージによる炎症や肝星細胞による線維化を伴う疾患で、現在、慢性肝不全の最大要因となっている。従来、NASHの研究で利用されてきた動物モデルや細胞株モデルでは臨床病態と乖離があることが問題となっており、NASHの病態メカニズムには未解明な点が多く残っている。本研究では、ヒトiPS細胞由来オルガノイド創出技術を駆使することにより、異なる細胞種間で働くパラクライン因子を介したNASH進展機構を明らかにすることを目的としている。本年度は、まず、炎症や線維化を再現可能なヒト肝臓オルガノイドをヒトiPS細胞から創出するための培養技術を確立した。すなわち、肝臓の主要な構成細胞である肝細胞に加えて、クッパー細胞や肝星細胞などの、複数種類の細胞を同時に分化させる手法をとった。細胞種マーカー解析やトランスクリプトーム解析、電子顕微鏡による形態学的解析の結果、構築されたオルガノイドには、肝細胞に加えて、クッパー細胞や肝星細胞に極めて類似した細胞群が含まれていることが明らかとなった。次に、炎症や線維化を誘導するための刺激条件を検討し、遊離脂肪酸であるオレイン酸を添加することにより、オルガノイド中にトリグリセリドの蓄積が起こるとともに、その後、TNF-αやIL-8などの炎症性サイトカインの発現が上昇、I型コラーゲン線維の細胞外沈着が生じることを見出した。一連の結果は、本オルガノイドモデルを用いることで、NASH病態に特徴的な脂肪蓄積、炎症反応、線維化が試験管内で誘導できること、そして患者由来iPS細胞を用いることで患者病態を模倣できることを示唆している。遊離脂肪酸を長期負荷した肝臓オルガノイドにおいて、未処理群と比較して発現変動が見られる分泌因子をスクリーニングし、抗線維化活性を有するパラクライン因子を特定することに成功した。
2: おおむね順調に進展している
本研究において重要となる、脂肪性肝炎病態を再現するオルガノイドモデルの確立、および、病態進展と関連するパラクライン因子の特定に成功しているため、おおむね順調に進展していると考えている。
今後は、肝臓オルガノイドにおける、特定したパラクライン因子の作用機序を細胞レベル・分子レベルで解析するとともに、関連するシグナル伝達経路に機能喪失変異を有する患者iPS細胞を用いたNASH病態解析を詳細に検討する予定である。
分化誘導条件の最適化について、当初予定していた期間よりも短期間で完了することができた結果、使用した消耗品が少なく抑えられたため、次年度使用額が生じた。次年度、疾患iPS細胞を用いた実験およびシングルセルRNA-seq解析を加速するために使用する計画である。
すべて 2020 2019
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Frontiers in Endocrinology
巻: 11 ページ: -
10.3389/fendo.2020.00096
Cell Metabolism
巻: 30 ページ: 374~384
10.1016/j.cmet.2019.05.007