研究課題
本研究では、ヒトiPS細胞由来オルガノイド創出技術を駆使することにより、異なる細胞種間で働くパラクライン因子を介した非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)の進展機構を明らかにすることを目的としている。本年度は、昨年度特定したパラクライン因子が線維化を抑制するメカニズムを明らかにすることを目的に、ヒトiPS細胞由来肝臓オルガノイドのシングルセルRNA-seq(scRNA-seq)解析を実施した。具体的には、脂肪性肝炎の誘導刺激、特定因子、これらの同時刺激、および、対照群として未処理の計4群のオルガノイドサンプルから、それぞれ約5,000細胞分のscRNA-seqデータを取得した。これらのデータを統合して、得られた各クラスターの細胞種同定を行なった。特に、肝星細胞に類似した細胞群に対して、既知の肝星細胞マーカーの発現プロファイルをもとにサブクラスタの解析を進めた結果、複数の肝星細胞サブクラスタのうち、特定の生理活性ペプチドを発現する1つのサブクラスタにおいて、脂肪性肝炎刺激やパラクライン因子に応答した線維化関連遺伝子発現変動が顕著に認められた。さらに、この肝星細胞サブクラスタがパラクライン因子にどのように応答しているかを精査したところ、Wntシグナルや脂質メディエーター産生の変化を介して、パラクライン因子が肝星細胞の活性化を抑制するという作業仮設を立てるに至った。さらに、本年度は、病勢の明らかなNASH患者血液サンプルを用いて、パラクライン因子やその血中安定性を制御する結合分子の変動を解析した。その結果、パラクライン因子の特定の結合分子が、肝線維化が進行するに従って明瞭に減少すること、また、既存の線維化マーカーよりも、感度・精度ともに優れていることを見出した。
1: 当初の計画以上に進展している
本研究において計画していた、パラクライン因子の抗線維化活性化に関する1細胞レベルでのメカニズム基盤をシングルセルレベルで明らかにすることができた。それに加えて、このパラクライン因子に関する知見をもとに、患者サンプルの解析にも着手し、肝線維化と良く相関する新規バイオマーカーの導出にも成功し、論文投稿および知財取得へ向けて研究を進めている。新型コロナウイルス感染拡大の状況下にも関わらず、これらの成果を挙げることができたことから、当初の計画以上に進展していると考えている。
本研究で得た知見を論文化・知財取得することを最優先に進める。加えて、特定したパラクライン因子やバイオマーカー分子がヒト肝線維化の進行にどのような因果関係を持って関与しているのか、患者オルガノイドや患者サンプルを用いてさらに詳細を検討する予定である。
新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、当該研究が一定期間推進することができず、予定していた実験計画の遂行が本年度内に完了しなかった。それを受け、延長承認申請をし、予算の一部を次年度へ残したため。使用計画としては、疾患iPS細胞を用いた病態メカニズムの解析や新規バイオマーカー候補分子のさらなる検討を行う予定である。
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