本研究では、ヒトiPS細胞由来オルガノイドの創出技術を駆使することにより、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)における細胞間シグナルとその病態進展への役割を明らかにすることを目的としている。 本年度は、本研究を進める中で同定したパラクライン因子(X)が線維化を抑制するメカニズムをオルガノイドレベルで検証するために、Xの受容体の機能喪失実験をおこなった。具体的には、先天的にX受容体に機能喪失変異が生じた患者(重篤な糖尿病等の代謝異常を呈する)に由来するiPS細胞と遺伝子型が正常なparental control株(いずれも樹立済み)を入手し、多能性幹細胞としての基本的な性状を確認するとともに、肝臓オルガノイドへの分化誘導プロトコルを最適化した。現在、これらのiPS細胞由来オルガノイドに対して、遊離脂肪酸を刺激した際の線維化応答について、解析を進行中である。 さらに、前年度にNASHの線維化マーカーとして見出したXに結合する血中因子(X-BP)について、患者サンプルを用いて詳細な解析を進めた。その結果、X-BPがNASHの肝線維化早期に有意に減少すること、特に活動性NASHというリスクの高い病態に対して、既存の血中マーカーよりも優れた感度・精度を持ってX-BPがバイオマーカーとして活用可能であることを見出した(特許出願)。加えて、X-BPの線維化抑制活性の有無を検証するために、リコンビナントX-BPをヒト脂肪性肝炎オルガノイドへ添加したところ、Xと同様にコラーゲン線維の沈着が顕著に抑制されることも明らかにした。以上を含む本研究の一連の結果から、NASH患者ではX-BPの減少を起点として肝臓内でのXシグナルが特に肝星細胞で減弱することで線維化が進行する、というNASH線維化における新規パラクライン作用機序が存在すると考えられた。
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