研究課題
肥満に端を発した脂肪肝が進行すると、炎症と線維化を伴う非アルコール性脂肪肝炎(NASH)の発症に至る。NASHに特徴的な王冠様構造は、死細胞とマクロファージの相互作用の場であり、炎症と線維化の進行を決定する。しかしながら、マクロファージがどのように死細胞を認識し応答することで、NASHの進行を制御しているのかは不明である。本研究では、マクロファージにおける死細胞認識分子に介入することで、NASHの病態形成に及ぼす意義を明らかにする。2019年度は、死細胞の貪食を担う分子Gpnmbのノックアウト(KO)マウスの骨髄細胞を、MC4R-KOマウスに移植し、ウェスタンダイエットを25週間負荷することでNASHを誘導した。この骨髄移植(BMT)・負荷実験を2クール実施し、1クール目では体重および肝重量に関して群間に差を認めなかったが、2クール目ではKO-BMT群において体重および肝重量が有意に低下した。1クール目については遺伝子発現の解析を行ったが、炎症や線維化に関連する因子の発現に大きな違いを認めなかった。NASHの病態形成に及ぼす影響の結論を下すために、現在炎症および線維化に関して組織学的解析を進めている。また、死細胞認識がマクロファージの炎症・線維化関連因子発現に及ぼす影響を評価するために、培養マクロファージと凍結融解処理により細胞死を誘導したマウス初代肝細胞を共培養した。細胞死した肝細胞の存在下でマクロファージにおける炎症・線維化関連因子の発現誘導が確認できたため、この培養系を利用し死細胞認識分子がマクロファージの形質に及ぼす影響についての実験を計画している。
2: おおむね順調に進展している
本研究では2年間で死細胞認識分子2種類について、NASHの病態形成に及ぼす影響を明らかにすることを計画している。研究年度1年目の段階で1種類の分子について、2クール分のサンプリングが完了しており、再現性等を含めた解析が可能な状態にある。したがって、現段階で本研究はおおむね順調に進展していると判断している。
Gpnmb BMT実験2クール分の解析(組織学的解析・血清生化学解析など)を進めるとともに、もうひとつの死細胞認識分子Dectin-1についても解析を進める。また並行して、細胞死を誘導した肝細胞と培養マクロファージの実験系においてGpnmbやDectin-1の過剰発現やノックダウンを行い、マクロファージによる死細胞認識が、NASHにおけるマクロファージ機能変容に及ぼす影響について実験を進める。
2019年度は分子生物学試薬類ならびに生化学試薬類等について、購入時にメーカーのキャンペーン等に配慮したため、当初の予定より試薬類の購入金額を抑えることができた。次年度使用額を利用し、2020年度は解析に要する抗体類やキット類を購入する。
すべて 2020
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件)
Sci Rep
巻: 10 ページ: 983
10.1038/s41598-020-57935-6