研究課題/領域番号 |
19K16543
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研究機関 | 奈良県立医科大学 |
研究代表者 |
牧野 舞 奈良県立医科大学, 医学部, 助教 (10736870)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | リアノジン受容体 / スプライシングバリアント / インスリン生合成 / カルシウムシグナル |
研究実績の概要 |
リアノジン受容体(RyR)は小胞体内腔から細胞質へのCa2+の放出を担うCa2+チャネルであり,膵β細胞ではインスリン生合成機構に関与している.主に心筋細胞に発現する2型RyR(RyR2)には組織特異的選択的スプライシングバリアントが存在し,心筋型RyR2にはexon 75が含まれるのに対し,膵β細胞型RyR2ではexon 75が欠失している.RyR2遺伝子のintron 75のスプライスドナー配列が通常の「gt」ではなく「gg」であることによりこの選択的スプライシングが起こっていると考えられたため,本研究では,CRISPR/Cas9ゲノム編集システムを用いてゲノムDNA上の当該配列を「gt」へ変異させ細胞内で発現するRyR2のスプライス型(発現型)を改変させることで,RyR2の組織特異的スプライシングバリアントの存在意義の解明を目指している. ヒト膵β細胞由来1.1B4細胞に対しゲノム編集処理を行い作製した,心筋型RyR2を発現するゲノム改変細胞では,インスリンmRNA発現量・分泌インスリン量ともに著しく減少していることをこれまでに見出した.そこでインスリン遺伝子のプロモーター領域を用いてレポーターアッセイを行ったところ,親株細胞と比較してゲノム改変細胞でのプロモーター活性の低下はみられなかった.したがって,RyR2のスプライス型の変化によるカルシウムシグナルはインスリン生合成機構の特に転写後段階に影響を及ぼす可能性が示唆された.一方,これまでに得られたin vitroの結果をin vivoでさらに詳細に解析するため,ゲノム編集によりRyR2遺伝子のintron 75のスプライスドナー配列を「gt」にホモ変異させたゲノム改変マウスを作製した.今後は作製したゲノム改変マウスを用いてインスリン生合成機能の評価などを進めていく予定である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の計画では,当該年度において,CRISPR/Cas9システムを用いてRyR2遺伝子のintron 75のスプライスドナー配列を「gg」から「gt」へ変異させたゲノム改変マウスを作製し,インスリン生合成の変化について個体レベルでの影響を検証することを予定していた.しかし,ゲノム改変マウスの作製及び繁殖に時間を要したため,当該年度内ではゲノム改変マウスに対するインスリン生合成機能などの具体的な機能解析には至らなかった.
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今後の研究の推進方策 |
ヒト膵β細胞由来1.1B4細胞において,RyR2のスプライス型(発現型)がexon 75含有型の心筋型へ変化するとインスリンmRNA発現量が著しく減少し,インスリン生合成機構の特に転写後段階に影響を及ぼす可能性が示唆された.このようなin vitroでの現象をin vivoで検証することを目指し,当該年度ではCRISPR/Cas9システムを用いてRyR2遺伝子のintron 75のスプライスドナー配列を「gg」から「gt」へ変異させたゲノム改変マウスを作製した. 今後の方策として,作製したゲノム改変マウス及び野生型マウスを用い,膵β細胞のインスリン生合成機能の解析や膵臓の組織切片を用いた組織学的解析などを進めることを計画している.膵β細胞で発現するRyR2がexon 75欠失型であることの意義について,in vitroとin vivoの両方での知見をまとめ,学術論文として発表する予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度はCOVID-19のパンデミックの影響により参加を予定していた国内外の学術会議が延期・中止やオンラインでの開催となったため,旅費が未使用となった.また,ゲノム改変マウスの作製に時間を要し,当該年度では論文投稿・掲載に至らなかったため,英文校閲費を含む人件費及び論文投稿費・オープンアクセス費を含むその他の経費に大幅な残金が生じた. 次年度は作製したゲノム改変マウスの維持や機能解析実験に必要な飼育費や試薬類等の費用を支出する予定である.また,ゲノム改変マウスの機能解析により得た研究成果を国内外の学術会議で発表し(第64回日本糖尿病学会年次学術集会(2021年5月20~22日),81st American Diabetes Association Scientific Sessions(2021年6月25日~29日)で発表予定),学術論文を投稿することを計画しており,これに必要な英文校閲費,論文投稿費・オープンアクセス費を次年度に使用する予定である.
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