本研究では、生体恒常性の維持に重要な役割を果たすマクロファージの形質変化を指標に、マイクロパーティクルやエクソソームなどを含む細胞外小胞(EVs)の質的・量的変動の生理的意義を見出すことを目的としている。2019-2020年度において、EVsによって発現が調節される遺伝子(発現増加:55個、発現減少211個)を見出しており、EVsに含まれるmiRNAの一部が関与していることが示唆された。 本年度は、同遺伝子発現変化がマクロファージの機能にどのような影響を与えるかの検討を中心に進めた。まず、見出した発現増加遺伝子55個および発現減少遺伝子211個を用いて、エンリッチメント解析(GO解析ならびにPathway解析)を行ったところ、いずれの解析結果についても感染防御に関わる経路Xがエンリッチされていた。そこで、BMDMsの培養系にEVsを加え培養後(EVs-BMDMs)、EVs-BMDMsを刺激Aを用いて刺激し、ELISA、RT-qPCRおよびウエスタンブロットを用いて、経路Xの変化を検討した。その結果、コントロールBMDMsに比較して、EVs-BMDMsでは、有意に経路Xに変化が認められ、その最終産物である分子BおよびCの産生量が劇的に増加することを見出した。一方で、血中EVsの多くは血小板由来であることが広く知られているが、刺激Aによる分子BおよびCの産生量の著増は、本研究の対象としているEVsのみならず、血小板の放出物によっても同様に認められた。 以上の結果より、血中EVsは、血液を介して全身のマクロファージの形質変化を誘導しており、種々の病態形成に起因するEVsに含まれるmiRNAカーゴ等の変化が、マクロファージの感染防御を規定することが示唆された。また、その血中EVsの変化は、EVsの産生源である血小板の質的・動的変動に影響されると考えられた。
|