研究実績の概要 |
ライソゾーム病は, 遺伝的な要因によってライソゾームの加水分解酵素に異常が生じることで起きる疾患である. 現時点で主な治療法は, それぞれの原因遺伝子に対応した酵素を, 外から補充する治療 (酵素補充療法) となっている. しかし, 酵素補充療法は治療が継続的であり, なお且つ薬剤が高額なため, 患者の経済的負担が大きい. このような現状を受け, 安価で効果的な新規治療薬の開発が必要になるのではないかと考え, 液胞型プロトンATPase (V-ATPase) というライソゾーム膜に局在するプロトンポンプとライソゾーム病との関連性に着目して検討を進めた. 本研究では, ライソゾーム病の1つであるファブリー病に焦点を当てた. 具体的には, iPS細胞と新規ゲノム編集技術を用いて, ファブリー病の原因遺伝子である GLA を欠損させた iPS細胞を作製し、心筋細胞へ分化させた. その結果, (1) GLA 欠損 iPS細胞由来心筋細胞では, ライソゾームの酸性化能に異常が認められた. (2) V-ATPase を構成する V1B を欠損させた iPS細胞では, ライソゾームの酸性化能やファブリー病時に活性が低下する α-GAL の発現が減少した. (3) 上記の (1), (2) の状態において, AKT (Ser473) のリン酸化が低下した. (4) AKT のリン酸化を制御する mTOR複合体2 (mTORC2) を構成する RICTOR を欠損させた iPS細胞由来心筋細胞において, ファブリー病態モデルと同様の表現型を示した. (5) V-ATPase と mTORC2 の関係性を検討するために, V1B に FLAG tag を付加させた iPS 細胞を作製した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ファブリー病の原因遺伝子である GLA, さらに V-ATPase を構成する V1B の発現を抑制した iPS細胞由来心筋細胞において, ともに AKT のリン酸化が低下していることがわかった. これを受け, V-ATPase サブユニットをタグ化した iPS細胞を作製し, AKT を制御する mTORC2 との関係性の検討に移行できることは大きな進展だと考える. しかし, 様々なライソゾーム病モデルにおいて V-ATPase の機能的・病態学的寄与を検討するという研究計画に関しては, 現時点でファブリー病モデルのみの検討になっており, これらの現状を総合的に考慮した結果, おおむね順調に進展しているという評価に至った次第である.
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今後の研究の推進方策 |
本研究では, CRISPR interference (CRISPRi) というゲノム編集システムを用いて, 目的とする遺伝子の発現抑制を行ってきた. 研究計画を遂行する中で, 様々な遺伝子を標的とした CRISPRi iPS細胞を作製してきたが, それらは心筋細胞への分化が中心であった. そこで, 心筋細胞以外の他の細胞への分化も試み, ライソゾーム病関連遺伝子の役割について幅広く理解していきたいと思っている. ファブリー病に関しては, これまで集中的に研究を進めてきたこともあり, 病態形成メカニズムについて多くのことを明らかにしてきた. 得られた知見とともに, さらに化合物ライブラリーを駆使したスクリーニングアッセイ系を構築することで, 新規の治療薬候補化合物の探索にも取り組む予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染拡大に伴い, 学術集会の開催中止 (誌上開催) により, 旅費に関する支出が少なく済んだ. 次年度は, 当該年度と比べて直接経費が減額するが, 実験状況については現状を維持したいこと, さらに現在のところ2報の論文投稿を予定しており, 英文校正や投稿に費用を要することが考えられるため, そのような所に使用させていただきたいと思っている.
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