研究実績の概要 |
ライソゾーム病は, 遺伝的な要因によってライソゾームの加水分解酵素に異常が生じることで起きる疾患である. 現時点で主な治療法は, それぞれの原因遺伝子に対応した酵素を, 外から補充する治療 (酵素補充療法) となっている. しかし, 酵素補充療法は治療が継続的であり, なお且つ薬剤が高額なため, 患者の経済的負担が大きい. このような現状を受け, 安価で効果的な新規治療法の開発が必要になるのではないかと考え, 液胞型プロトンATPase (V-ATPase) というライソゾーム膜に局在するプロトンポンプとライソゾーム病との関連性に着目して検討を進めた. V-ATPase を構成する V1B を欠損させたiPS細胞において, ライソゾームに局在する酸性プロテアーゼであるカテプシンの発現や活性が低下していることを見出した. さらに, ライソゾーム病の1つであるファブリー病を模倣した病態モデル細胞においても, 同様の現象が見られたことから, 当該年度は主に, このカテプシンの活性を高める化合物の探索を中心に行った. 大阪大学薬学研究科 創薬サイエンス研究支援拠点に化合物ライブラリーの提供を依頼し, 実際にiPS細胞を用いたスクリーニングアッセイを行った. さらに, V1B を欠損させたiPS細胞では, AKT (Ser473) のリン酸化が低下していたことから, その制御を担う mTOR複合体2 (mTORC2) と V-ATPase との関係性について, 前年度作製した V1B に FLAG tag を付加させたiPS細胞を用いて, 免疫沈降法により検討を行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
スクリーニングアッセイに関しては, iPS細胞を用いたスクリーニング系を自ら構築し, 1次スクリーニングの段階で, 2414個の化合物から基準を満たした化合物を10個同定した. 現在その10個の化合物に関しては, ファブリー病態を模倣したヒトiPS細胞由来心筋細胞に処置し, 病態の改善等が確認されるかを検討中であり, 当初の想定よりも進捗状況は良好と認識している. しかし, ファブリー病の原因遺伝子を欠損させたiPS細胞を作製し, それを心筋細胞へ分化させることで, 心ファブリー病態形成メカニズムに言及した実験結果については, 論文投稿の段階で予想以上に時間を費やしている. さらに, mTORC2 と V-ATPase との関係性を検討するために行った免疫沈降に関しても, 明確な結論までには行きつけていないため, これらの現状を総合的に考慮した結果, やや遅れているという評価に至った次第である.
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今後の研究の推進方策 |
スクリーニングアッセイによって得た, カテプシンの活性を上げる化合物に関しては, ライソゾーム病に対する効果を確認すると同時に, V-ATPase に対してどのような影響を与えているかについても検討する. 具体的には, ライソゾーム内 pH 等のライソゾーム機能や V-ATPase サブユニット発現量の変化に着目して検討する予定でいる. このような検討が共に明らかになっていけば, ライソゾーム病における V-ATPase の病態的役割の解明とその治療薬候補の創出に繋がるものと考えている.
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染拡大に伴い, 学術集会のオンライン開催等により, 旅費に関する支出が少なく済んだ. 次年度使用額として生じた助成金に関しては, 引き続き, 英文校正や論文投稿時に要する費用が必要になると考えられるため, そのような所に使用させていただきたいと思っている.
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