研究課題/領域番号 |
19K16547
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研究機関 | 国立研究開発法人国立国際医療研究センター |
研究代表者 |
生島 芳子 国立研究開発法人国立国際医療研究センター, その他部局等, 上級研究員 (00571366)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 2型糖尿病 / MEK/ERKシグナル / 細胞増殖 / 開口放出 / 膵β細胞 |
研究実績の概要 |
本研究の背景として、膵β細胞におけるMEK/ERKシグナルの役割について検討するために作成した膵β細胞特異的Mek1/2欠損マウスの解析において、これまでに、本マウスが通常食下では耐糖能異常はきたさないもののin vivo GSISで軽度のインスリン分泌不全を呈すること、さらに長期高脂肪食負荷後にはインスリン分泌不全を伴う耐糖能異常をきたすことを見出してきた。今年度はこうした表現型を来す要因・分子メカニズムの解析を進めた。インスリン分泌低下の一因として、長期高脂肪食負荷時には同マウスにおいて増殖障害に起因すると考えられる顕著な膵島容量の低下が認められていたが、インスリン分泌量は膵β細胞の量と分泌能の2因子によって規定される。そこで2光子顕微鏡を用い、膵β細胞のインスリン分泌顆粒の開口放出数 (分泌能) を単一細胞レベルで評価した。具体的には、通常食・高脂肪食両条件下の膵β細胞特異的Mek1/2欠損マウス・対照群マウスから単離した膵島を用い、グルコースまたはcaged Ca2+で刺激して観察した。この結果、いずれの条件下の膵β細胞特異的Mek1/2欠損マウス由来の膵β細胞においても両刺激に対する開口放出数が低下している傾向が明らかとなり、膵β細胞量の低下だけでなく、開口放出障害も同マウスのインスリン分泌不全の一因と考えられた。 ERK1/2はキナーゼであり、転写因子の制御を介して下流で遺伝子発現制御するだけでなく、タンパクのリン酸化を介して直接的にタンパクの機能を制御している。そこで、MEK/ERKシグナルによる細胞増殖・開口放出制御の分子メカニズムの検索のため、RNA-seqに加えて、同マウス・対照群マウスの単離膵島を用いたリン酸化プロテオミクスを施行した。そして、MEK/ERK下流で開口放出制御に関与しうるいくつかのタンパク被リン酸化部位候補を見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
膵β細胞特異的Mek1/2欠損マウスで得られた表現型を説明するメカニズムとして、MEK/ERKシグナルが膵β細胞の量を制御することに加え、2光子顕微鏡による単一細胞レベルでの解析により、同シグナルが個々の膵β細胞の開口放出能を制御している可能性を新たに見いだすことができた。 また、すでに行っていた膵β細胞特異的Mek1/2欠損マウスの単離膵島でのRNA-seq解析に加え、上述の通り、単離膵島のリン酸化プロテオミクス解析も進めることができた。以上から、現在までに、膵β細胞におけるMEK/ERKシグナルの役割として膵β細胞と量と機能の両者の制御を見出しており、さらにその分子メカニズムを詳細を検討していく下地が整いつつあり、2型糖尿病治療にむけたMEK/ERKシグナル下流の新規標的候補分子の検索も順調に進行している。以上から概ね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、これまでに施行した単離膵島のRNA-seq データおよびリン酸化プロテオミクスデータから、膵β細胞の増殖障害および開口放出障害の要因となるMEK/ERKシグナル下流分子を捉え、2型糖尿病治療の新規標的候補分子を検索していく。特に、次年度はMEK阻害剤で処理した膵β細胞細胞株 (Min6) を用いたリン酸化プロテオミクスも進め、膵β細胞特異的Mek1/2欠損マウスからの単離膵島でのリン酸化プロテオミクスデータと比較評価することでMEK/ERKシグナル下流の標的候補分子を絞り込む計画である。 見出されたMEK/ERK下流の候補分子については、遺伝子欠損細胞株・アデノ関連ウイルスによるノックダウン・過剰発現・遺伝子改変マウス等を用いその機能を解析していく。こうした実験の結果絞り込まれた候補分子については、これを制御する薬剤をさらに検索し、MIn6・単離膵島への添加 (in vitro)/2型糖尿病モデルマウスへの投与 (in vivo)によりそのインスリン分泌や耐糖能への効果を評価する。
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次年度使用額が生じた理由 |
残金は4,023円でほぼ計画通りの支出となった。 次年度使用額は動物実験関連の消耗品に使用する計画である。
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