癌細胞や間質の正常細胞から分泌されるエクソソームは癌の機能に関わることが報告されているが,エクソソーム研究は血清や尿,培養細胞上清などが用いられることが多く,病理組織標本上での発現意義を検討した研究は少ない.そこで,本研究ではヒト乳癌組織におけるエクソソームマーカーの発現意義を検討した.本年は昨年よりも症例数と染色項目を増やし,解析を実施した.エクソソームマーカーCD63はhistological grade (HG),pathologic T factor (pT),増殖マーカーであるKi67の発現と正相関が認められた.また,エストロゲン受容体陽性乳癌では,癌細胞および間質細胞にCD63の発現が認められた症例においてpTやKi67と正相関が認められた.また,エクソソームマーカーCD63およびCD81が高発現した症例についてもpTおよびHGと正相関を示したことから,両タンパクの発現が高い程,乳癌の悪性度が高くなり,特に増殖に関与する可能性が示唆された.また,抗体の選定を行っていた近接ライゲーションアッセイにおいても,乳癌細胞での陽性像が検出され,さらに一方のタンパク発現Caveolin-1をノックダウンした細胞では陰性となった.以上のことから,検討していたタンパク質間相互作用が存在するということが確認できた.また,Caveolin-1発現をノックダウンした細胞上清では,コントロール細胞上清と比較して多くのエクソソームが検出された.本研究では,乳癌組織でのエクソソームマーカーの発現意義を明らかにし,またエクソソームマーカーとCaveolin-1とのタンパク質間相互作用がエクソソームの分泌に関与する事を示唆する結果も得られた.今後は,このタンパク質間相互作用の制御機構の解明と分泌されたエクソソームが乳癌細胞に与える影響について継続して検討を行っていく.
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